※にょた黒設定。キセキの嫁なのは決定事項で、病弱設定は単なる俺得だからです。すみません誠凜には通ってません。捏造しすぎてどうしようもないです。
全中が終わった後、黒子テツナは姿を消した。部員の誰にも理由を告げずに、ただ退部願だけが顧問に届き顧問はそれを受理したのだ。始めキセキ全員で顧問を問い詰めた。何故、何故彼女は退部したのか。自分達に何も告げなかったのはどうしてなのか。しかし顧問は何も言わない、まるで口止めされているかのように。赤司が詰め寄っても事態は何も変わらなかった。
そして迎えた卒業式。キセキ達は黒子となんとか話そうと探し回ったが、黒子はどこにもいなかった。卒業式までの半年間逃げ続けた彼女は、卒業式にすら姿を現さない。青峰や赤司までが見つけられないということに、三人は驚くしかなかった。キセキは黒子を見つけるのに長けている、その筆頭がこの二人だったからだ。
「青峰君」
桃井が少し大きめの冊子を青峰に渡す。しかし青峰にはこんなものを読んでいる時間は無かった。他のキセキも同じだ。しかし桃井の持ってきた冊子のタイトルを見て緑間の表情が変わった。
「……出席簿?」
「テツちゃん、ここ半年会ってなかったでしょ。特に放課後なんかはすぐにいなくなってた。私すごく疑問だったんだ。だって青峰君達があんなに探して見つからないって有り得る?そしたら、これ――」
出席簿をめくる。この出席簿は黒子のクラスのもので、キセキ達と桃井の名前は無い。三年生へのクラス替えで見事に別れてしまったからだ。
「テツちゃんの場所、欠席か早退になってるの………」
「半年間ずっと!?それおかしくないスか」
「だからね、顧問じゃなくて担任じゃなくて、副担任に聞いてみたの。テツちゃん口止め結構強くしてたけど、副担任までは考えて無かったみたい」
桃井の口から聞かされた内容は、キセキ達が思っていた内容の斜め上を行くものだった。そして同時に、キセキ達が思っていた以上に最悪なものだった。
高校生になってのバスケの大きな大会。規模が規模なだけに毎年盛り上がりを見せているが、今年は例も見ない程に盛り上がっていた。それもその筈で、今年はあのキセキの世代が直接対決をするのだ。同じチームにいた最強達が別のチームに別れお互いに戦う、バスケを知る者には堪らない大会である。そのせいかチケットはすぐに完売してしまった。
「まさか緑間っちとこんなに早くやるとは思わなかったっスよ」
「同感なのだよ。おまけに青峰達も揃うのだろう?記者共が五月蝿くて困るのだよ」
「こんくらいじゃ俺はなんとも思わないっス」
「モデル死ね」
「緑間っち!?」
旧友同士の会話に聞こえるが、会話の中に時折寂しさが入り混じっている。恐らくキセキ達が集まる際にこの寂しさは一生消えないのだろう。五人でのバスケは一人が欠けた時点で意味を成さなくなっていた。
「じゃあ緑間っち、コートで」
「ダンクより3Pシュートの方が素晴らしいことを証明してやる」
こうして海常の黄瀬と秀徳の緑間はお互い背を向けた。
試合は両者が一歩も引かない展開になっていた。点を取られたら取り返す。点差が広がることをお互い恐れているプレーだ。
「―しまったっ」
笠松のパスが高尾に阻まれ緑間がパスを受ける。緑間がシュート体勢に入り、ボールが宙に舞い上がった。しかし黄瀬がそれを阻止しようとする。結果黄瀬の手はボールを掠った、しかし軌道を変えるには至らずボールは少しブレながらもネットを通った。
スコアボードに三点が加算される。一度に三点取れる3Pシュートはやはり痛い。それがキセキの世代ということで、尚更苦戦してしまう。黄瀬は緑間の強さを中学から知っている、だからか、彼の成長ぶりに感嘆の声を漏らした。
(やっぱり緑間っちは一筋縄ではいかないっスね)
監督がタイムアウトを入れる。海常のチームメンバーがマークの対象を決めている間、黄瀬はふと目線を観客席に向けた。以前黒子とした会話を思い出したのだ。
「黄瀬君は、どの席が好きですか?」
「観覧席なんてどの大会のも前が良いと思うっスけど…」
「僕はこの席が好きなんです。コート全体がちょうど綺麗な角度で見れるんですよ」
「ふーん。そういうもんスかね」
あれは確かプロの試合を見に行こうと話し合っていた時の話だった。桃井は部員達の練習メニューに掛かり切りだったので、その試合について黒子が全権を委ねられていたのだ。どの席を取ろうか迷っていた黒子に話し掛けた黄瀬は、その時に逆に意見を求められた。
(確かあの席って―)
観客席を見ても正直どの席がどんな番号だか分からない。しかしあの時見ていたコートのマップを頭の中に展開させれば、なんとなく大体の位置は掴める。
(あれっ空席?)
前述した通り今年はとてつもない盛り上がりを見せている。かなり後ろの席ならまだしも、あの時黒子が好んでいた席はかなりの上席だ。空席のままなんてことはありえない。
おかしいと思い目を凝らしてみる。黄瀬の視力は一般平均程はあるため、この距離で見えないなんて筈はない。見えないとしたらそれは―――
「っ!?」
思わず黄瀬は立ち上がる。笠松が怪訝そうな表情で黄瀬を見るがそんなことは気にしない。それより大切なことが目の前にあった。
「―――黒子っち?」
あの席に、あの席に座っている少女は間違いなく黒子テツナその人であった。