浜面仕上のアジトにて大変異様な光景が広がっていた。目の前にはレベル5の上位女性陣三人が大きな机に何やら雑誌などを広げて談笑している姿が。そして浜面仕上は給仕をしているのだ。コーヒー派紅茶派オレンジジュース派と、様々なので非常に面倒臭い。おまけに銘柄を指定してくるものだから余計に手間がかかる。だがなけなしの良心からか、代金はそれぞれ持ちだった。
「おいおい超電磁砲ちゃんよぉ、アンタこんな奴が好みな訳?」
「好みっていうか、この中なら一番良いかなって思うだけよ」
「コイツ確か金遣いと女癖悪いって有名だった気がするンだが」
「ははっ!超電磁砲ちゃんマジうける」
「私はコイツが好きな訳じゃないんだってば!」所謂恋バナというやつで大変微笑ましい。これが普通の女の子達ならそうなのだろう。しかし目の前の人間達は揃いも揃って実力派能力者達だ。会話の内容がとてつもなく普通から掛け離れていた。
「んじゃ今回はコイツで決定な」
「まぁ直接怨みは無いけど悪い奴に変わり無いんでしょ」
「作戦はいつも通りでいいのか?」
「沈利様が引っ掛けて百合子が透視、美琴が流出で上がりだろ」
実はこの三人、法に触れるようなことを普通に画作している。一般人に紛れている犯罪者や悪者にターゲットを絞り、一種の検挙活動をしているのだ。幸いというか美琴側には黒子がいるので、大事にはなっていないが。
具体的な流れはこうだ。引っ掛ける役、つまりは色気役が対象者に近づきある程度の関係まで辿りつく。この役は麦野沈利が担当である。そして二人きりで会っているところを透視役の鈴科百合子が『心理掌握』を使い対象者の思考及び心を読むのだ。そして視た内容を美琴がすぐさま風紀委員管轄の掲示板に上げる。このやり方で検挙した人間は軽く二桁を超えていて、掲示板を見る者達からは神として崇められていた。要するに一種の小規模世直し活動なのだ。
結果的に救われた者は少なからずいるため、三人は学園都市治安維持隊として活動している。しかし元々は全ての役を百合子一人で行っていた。高すぎる能力に見合った善の価値観を、百合子は百合子なりにもっている。そして後ろ盾も何も無い、まさに独りでしていた活動に参加の意を表したのは麦野沈利であった。当時の麦野は浜面達から様々な刺激を受けていて、百合子同様何かをしたいと思っていたのだ。そして百合子の噂を聞いて加わったのである。
美琴の場合は風紀委員である黒子からのタレコミだった。いくら世間の為とはいえ二人がしていることは必ずしも正しいとは言えない。風紀委員は守る役割を公的に任されているが、二人の活動は完全に個人の範疇を超えている。故に風紀委員の中で、また警備員の中でも危険視されていた。
その情報を黒子から聞き、もしかしてと美琴は思った。レベル5の中で百合子と麦野が何か企んでいるという話を垣根から聞いていたのだ。大切な後輩や後輩の仲間が困っているのだ、美琴としても何かしてあげたい。―――と思っていたのだが、気がつかないうちに美琴も仲間になっていた。別に上条当麻が助けられたからでは無い、断じて無い。
「ねぇ、私達って俗に言う犯罪者なのかな?」
「ンなわけ………あるかもな」
「おいおい、無能な風紀委員や警備員の代わりに働いてんだぜ。むしろ報酬が欲しいくらいだよ全く」
と厳しいことを麦野は言うが、大して怒っても不満でもない。元々の彼女の気質を直す気が無いだけである。
「まァ、風紀委員が黙認してくれてンだ。使わねェことは無ェだろ」
「百合子に賛成。おい浜面、飲み物おかわり」
「日常の中の刺激みたいな感覚になっちゃってるなぁ。あ、浜面さん飲み物下さい」
「俺はお前らのパシリじゃないんだけどな」
「「「何を今更」」」
彼女達の正義は褒められたことでは無いのかもしれない。それでも"大きな力"を持った人間が、他人の為にそれを行使することは少なくとも間違っていない。麦野沈利という人物を見てきた浜面はそれだけは言えた。
「頑張れよヒーローさん達」
疲れた体には甘いものを。飲み物と一緒にケーキを出せば、三人の機嫌が急上昇した。やはり女の子は甘いものに弱い。やっぱりその辺りは普通なんだと、浜面は改めて思った。