※陽太くんが何故か純情。弟としてお姉ちゃん支える日々みたいな。not翔butオリジナル展開。



「瀬文さん瀬文さん、ねぇ瀬文さんってば聞いてます?」

「うるせェよニンニク女が。聞こえてんだから用件話せ」

「うわ、なんかウザいんですけど」

相変わらず(瀬文にとって)苛立ちを感じる顔をしながら当麻が笑う。こういう時の当麻はしつこいと瀬文は今までの経験から熟知していた。

「実はですね、今更な話ですが陽太のあのスペックの攻略法見つけたんすよ」

「それはお前がやった毒を回らせるものだろう」

「そうじゃなくて。もっと平和な解決法ですから。でも今の陽太には不要なんですけどね」

一は陽太としての記憶を取り戻していて、その結果今は弟として元気にやっている。この前なんか当麻が家に忘れていた財布をわざわざ渡しに未詳まで来たのだ。もちろんスペックは使わずに。

少し前まで枷を失った一はまさに最強、王として生きていた。そんな一を止めたあの作戦。一の能力のからくりを突き止め、尚且つ対抗策を講じた。この一件から、いやもっと前から瀬文は当麻を認めていた。暗く閉ざされた道を彼女はいつも頭脳で切り開いて来たのだ。

だからか、当麻が見つけた一の能力の対抗策というのに瀬文は興味をもった。彼女が考えることだ、きっと瀬文が考えつかないようなことなのだろう。

「で、どうするんだよその方法」

「口で説明すんの面倒なんで実践してみましょう。陽太カモーン」

間抜けた声で一の名を呼ぶ。次の瞬間一は当麻の隣にいた。能力で時を止めて来たのだろう。だがなんで当麻が名前を呼んだだけで来たのか。一にストーカー容疑を瀬文は心の中で掛けた。

「呼んだ?姉ちゃん」

「さすが陽太、自慢の弟だわぁ」

わしゃわしゃと頭を撫でれば照れたような声で一はえへへと笑った。姉に褒められたということが嬉しいようだ。世界の王だとか言っていた頃が全く信じられない。

「そうそう。陽太にお願いがあるんだよね」

「何でも言ってよ。何をすればいいの?」

「そのスペック封じさせてもらいます!」

言った途端に当麻は一にぎゅうっと抱き着いた。突然のことに瀬文と一は驚く。抱き着かれると思っていなかったので、一は抱き着かれたまま床に倒れ込んだ。幸い当麻を庇うように倒れ込んだため当麻に怪我はない。もちろん一にも無かった。

「姉ちゃんどうしたの急に…」

「陽太、お手を拝借します☆」

俗に言われる恋人繋ぎ、あの指と指を絡めて繋ぐ繋ぎ方だ。当麻は一の右手と自身の左手を繋げさせ、指を鳴らすことのできないようにしたのだ。

「瀬文さん見て下さい!陽太の能力は指鳴らしが絶対条件ですから、こうやって手を塞いでしまえば簡単に封じれるんです!」

自分の理論が正しかったからか、当麻の表情は明るい。しかし反対に一の表情は暗かった。というよりもひたすら赤面だったのだ。大好きな姉と手を繋ぐ、しかも恋人繋ぎ。十三歳の少年には刺激が強すぎたらしく、顔を赤らめて姉ちゃんと小さく呟いている。しかし鈍感な当麻は小さなSOSに気づかなくて、必死に瀬文にドヤ顔をしていた。

「当麻、可哀相だからどいてやれ」

「あぁそうっすね」

一の上からどいて当麻は自分の席に座った。一方一は恥ずかしかったからか、膝に顔を埋めて唸っている。済まないと瀬文は心の中で合掌した。

「その作戦、手を繋ぐまで近くにいかなきゃならねェだろ」

「あっ、そっか。良い案だと思ったんですがね」

巻き込まれた一はようやく事態を理解できたのか、いつものように冷静を作り装う。しかし未詳の中で一は既にシスコン決定であり、それに一は気づいていないのだ。しかし巻き込んでしまったのは事実なのでその点のみ謝罪した。もちろん当麻もだ。

「ごめんね陽太」

「ううん。姉ちゃんの役に立てたならそれで良いや」

この弟は姉に格段に甘い。それを思い知る結果になった。でも仲が良いことは良いことだ。当麻と一との間なら尚更。瀬文は何故か少し安心して席につき仕事を再開した。





「おい、お前どうして当麻が呼んだって気づいたんだ?」

「えっ?だって姉ちゃんの服に盗聴器―――いや、弟だからなぁ〜」

(コイツ今盗聴器って言ったか!?)

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