当麻は海野に自分の左手の感覚を消すよう頼んだ。死者と繋がるこの能力を消し去りたいのだと、当麻は言う。当麻にはスペックとは違う、当麻しか持てない頭脳があるから、これで当麻は警察として生きていくと、そう決めたのだ。
「当麻さん、そのお願いには同意できません」
「海野さん!!」
「貴女は死者を呼び出せる。でも能力を貸すかは我々の意志だ。仮に貴女の能力で呼び出されても従わないという選択肢もあるんですよ」
「けど私は……」
「貴女なら、自分を律することが出来る筈だ。スペックに頼らなくても、貴女なら生きていける」
海野は優しげに微笑み、当麻の髪を撫でる。まるで子供をあやすかのような動きだった。
「みんな貴女の為に能力を使うことを躊躇わないでしょう。もし貴女の能力を消してしまったら、怨まれるのは僕だ」
そう言い残して海野は自力で消えてしまった。また呼び出したところで答えは変わらないだろう。ならこのスペックと離れることは出来ない。
「当麻、俺はお前にスペックがあったとしても、お前を未詳の仲間だと思ってる」
「………ありがとうございます瀬文さん」
その言葉がとても嬉しいと、三角巾をハンカチ代わりに当麻は泣いた。それこそ一生分かと思ってしまうほど。これで池が出来てもおかしくないだろう。
「みんなの想いが私を強くする」
願掛けのように呟いた言葉には、なにより意志がこもっていた。