※アニメ化記念的なもの。




「黒子!」

黒子が振り返ればそこには緑間がいた。キセキの世代はみんな黒子を違う名称で呼ぶ。故に黒子と呼ばれた時点で、それは緑間なのだと自動的に分かるのだ。

「緑間君、どうかしましたか?」

「今のは俺にパスするところだろう。お前は青峰にばかりパスをするから相手のマークが青峰に集中する」

試合中(もちろん模擬試合中)に緑間はよく意見を言う。それは仲間や勝利のためなのだが、誰よりも発言回数が多かった。黄瀬や青峰、紫原などはそういったことを面倒臭いと思っている。まさにお節介な母親であった。黒子は基本他人の意見をきちんと聞くタイプなので、自然と緑間の意見は黒子に行く。

「緑間君はボールを受け取ってから少し時間がかかるでしょう?あの状況だったら青峰君にパスした方が良いと思いますけど」

「青峰はただでさえ向こうが警戒しているのだよ。わざわざ相手の警戒を買う必要はない」

「…………緑間君、すみませんがイライラしてきました」

「なっ!」

「とにかくそのことについてはもういいです。早く試合に戻りましょう」

こうして本日、黒子と緑間の間に何故か溝が出来てしまった。




「珍しいっすね、緑間っちと黒子っちが喧嘩とか」

「知らないのだよ。第一何に腹を立てているのかすら分からん」

「えっ、緑間っち分からないんすか?」

黄瀬の言葉に緑間は驚いてしまった。馬鹿の二大代名詞とも言える黄瀬に馬鹿にされている気分だ。いや実際に馬鹿にされている。黄瀬の顔には緑間がどうして分からないのか理解出来ないと書いてあるのだ。

「黄瀬、お前は分かるのか?」

「そんなの、話聞いてたら分かるっすよ」

「………青峰でも理解できたりするのか?」

「黒子っちと一番仲良い青峰っちなら尚更分かると思うっす」

青峰でも分かることが緑間には理解出来ない。これ以上無い屈辱的な言葉である。しかし黄瀬が言った言葉に、「青峰なら尚更分かる」という言葉があった。つまりは付き合いをしていれば分かるということだ。―――緑間は黄瀬より付き合いの長い筈なのだが。

「まぁ緑間っちには分からないかもっすね」

「アイツは何に腹を立てているのだよ」

「簡単に言うとっすね、こんな感じっす」

黄瀬は急に立ち上がり緑間にも促した。当然緑間の方が高いので自然と黄瀬を見下ろす形になる。黄瀬は緑間に少ししゃがむように言い、緑間は言われた通り屈んだ。

「緑間っちのシュートの体勢って変っすよね。直した方が言いと思うっす」

黄瀬に言われた瞬間、緑間はカチンときた。シュートは緑間の専売特許であり黄瀬にも真似出来ない。自分の中の誇りに近いものだ。それを何も知らない黄瀬に注意された。その上黄瀬に見下ろされている形なので余計に腹が立つ。

「黄瀬、お前いい加減に―――」

「黒子っちもそんな気分だったんすよ、多分ね」

分かった?と言わんばかりの顔に緑間は続く言葉を失った。黄瀬の言いたかったことが痛い程に分かってしまったからだ。黄瀬や青峰なら分かると言っていたが、少なくともキセキの世代なら分からなければならないことだった。

「まぁ黒子っちは後からネチネチ言うタイプじゃないっすから、気にしなくていいとは思うっすけどね」

それだけを言い残すと黄瀬は練習に戻っていった。緑間の視線は自然と黒子を追う。しかし持ち前の影の薄さのせいで中々見つからない。青峰ならきっといとも簡単に探し出してしまうのだろうが、生憎緑間にはそんな芸道は出来なかった。

すると軽快にボールがリングをくぐる音がした。目を向ければ青峰が綺麗にシュートを決めている。目を凝らせば、そこに黒子の姿があった。どうやら青峰と共にパスからのシュート練習をしていたようだ。今行っても邪魔になるだけなので、練習の後に声を掛けることにした。




「黒子」

名前を呼べばくるりと黒子は振り返った。表情はいつもと変わらない、無表情に近い顔だ。そんな顔の前にシェイクを突き出せば、黒子は驚いたのか目を見開いた。

「………緑間君に奢ってもらう筋合いがありませんけど」

「人からの好意はありがたく貰っておけ」

はぁ、と呟き黒子はシェイクを手に取り口をつけた。中身は至って普通のシェイクだ。ドッキリかと不安だった黒子の表情が少し晴れた。

「悪かったな」

呟いた言葉を聞き逃さずに、黒子ははいと言った。お互いが何を言いたいのかきちんと理解している。そこに無駄な言葉はいらない。バスケをする上でそれぞれにポリシーがあるのは当然なのだから。

「僕は必要な時に必要な人にパスをします。緑間君に必要な時はきちんとしますよ」

相変わらずの敬語には何も思わない。しかし言葉の中に確かな確信と自信が含まれていた。その言葉に緑間は、自分へのボールを全て託したいと思った。

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