※野々村さんと一くんの初邂逅話。
「暇だねぇ〜」
未詳とは、対スペックホルダーを専門とする部署である。そのため、一度任務が入ると大変忙しいが任務が無いとものすごく暇だ。当麻は新しく出来た餃子屋に行き、瀬文は身内の不幸で休み。広めの部屋で、野々村は暇を持て余していた。
「……暇だなぁ〜」
「……じゃあ僕とお話しよっか」
気がつけば当麻の席に座っている少年に、野々村は思わず腰の銃に手を宛てる。しかしすぐに悟った―――彼には勝てないと。警戒心はそのままに、野々村は手を元に戻した。
「うん、良い判断だね。僕に敵意を向けてもいいけど殺意は駄目だよ。つい殺しちゃうからさ」
「君は……スペックホルダーかい?」
「御名答☆」
当麻の席から立ち上がり、一は瀬文の机に腰掛ける。真意が読めない行動に、野々村は違和感を感じた。絶対的優位に立っているからなのか、一は特に何も仕掛けなかった。
「ねぇ、当麻は元気?」
「当麻くんかい?」
さすがに此処で姉ちゃんと呼ぶわけにはいかない。そうすれば一と当麻が姉弟関係であることがバレてしまうし、野々村は当麻に一とな件を深く追求するだろう。あくまで今までの関係を維持させることが目的で、それを壊し当麻を危険に晒す理由などない。
「当麻くんの知り合いなのかな?」
「………そうだね、とっても深いところで永遠に結ばれている存在かな」
一の言葉には愛情、慕情、好意などが含まれていた。そのことに野々村は隠すように眉をひそめる。自分達が追うべき存在がこれほどまでに当麻に感情を抱いていることに、得体の知れない不安を感じたからだ。
「当麻くんは、いや私達は君を追う人間達だよ。どうして当麻くんの様子を聞きに来たのかな?」
相手の状況を戦略的に聞きに来た訳では決して無いだろう。彼は圧倒的力に酔いしれている。それこそ、今にも野々村を殺せるくらいに。
「最近当麻、寝不足気味みたいだからさ。ついつい心配になっちゃった」
「―っ!」
駄目だ駄目だこれ以上は駄目だと野々村の中で警鐘が鳴り響く。これ以上の彼の侵入は自分達に害を及ぼすと、体中から汗が吹き出してきそうなくらいに。彼の感情を感じ取ってしまった。純粋で純粋な純粋すぎる好意、それがここまで怖いと初めて野々村は感じた。
「あっ時間、じゃあね」
声と共に一は消えた。同時に上がってくるリフト、中には瀬文と当麻がいる。
「ただいま帰りました」
「ただいま帰りました、……係長どうしました?顔色悪いっすよ」
心配そうに顔を覗き込んでくる当麻は何も知らない。当麻には知らせるべきではないと、野々村は瞬間的に思考を巡らせた。知ればこの先必ず障害になる。
「甘いもの食べちゃってね、大丈夫大丈夫」
明るい声を出せば二人とも安心そうな顔をする。これで良い、これで良いのだ。此処で起きたことは決して他言しないと、野々村は密かに心に決めた。