9月22日〜2月29日


「みんなよくやってくれた、お疲れ」

勾司郎の声と共に、皆の杯が掲げられた。村では決して見られなかった光景、それが今成し遂げられようとしている。すなわち日向と枸雅の隔たりを無くすことだ。お社の古い体制を崩し、新たな空守村を創ることが勾司郎達に課せられた使命だった。

「匡平、これで俺達の溝が無くなると良いんだが」

「まずは始めの一歩からだよ。ほら、乾杯」

詩緒や桐緒はまだ未成年の為ジュースになるが、匡平達は既にお酒が飲める。次期当主同士が酒を酌み交わすことは一種の表れになるだろう。

「これで空守村も変われるかもな」

「うん、勾ちゃんなら大丈夫!!」

腕を高々と上げた匡平は、いきなり勾司郎に抱き着いてきた。それに驚いた勾司郎は動けずにいたが、次の瞬間匡平を剥がしとんでもない速さで跳躍した。まるで何かを避けるような動き。そして先程まで勾司郎が居た位置にはナイフやらが刺さっている。

「へぇ、何が友好だよ勾司郎。端から下心な塊だった訳だ」

「勾ちゃん見損なったわ!匡平様に関して唯一大丈夫だと思ったのに……」

「待てお前、俺は何もしてな「黙れ(りなさい)」

「まひる姉様、匡平のグラス変な匂いするんだけど」

「はぁ!?んなの当たり前でしょ。だってそれお酒なんだから―――って何コレ!!」

「ねぇ阿幾、この45度とかいう数字は何なのかな?」

「しまった、この村の野郎共………」

酒宴を開くと村の人間には言ってある。きっと余計な気遣いで『村一番の酒にしよう』などと思ったのだろう。結果村で一番"強い"酒を用意してきた訳だ。匡平は特に酒に関して弱い訳ではないが、さすがに45度は異常である。これでは強い人間でも確実に潰れる。

「阿幾!!あんたお酒の管理くらいきちんとしなさいよ!」

「俺のせいなのか!?」

「もう、二人とも喧嘩はだめだからなぁ〜」

びしっと親指を立てる匡平。もはや動作すらも危うい。普通は人差し指だろう。

「にしても勾ちゃん平気なのね」

「あぁ、俺酒に酔うっていう概念無ぇから」

「勾司郎の強さは並外れてるからな」

しかしいつもと違う匡平というのは、とても興味をそそられる。まひるも阿幾も双子もそうなようで、じっと匡平を見つめていた。見つめられることに匡平は恥ずかしくなったのか、匡平はいきなり阿幾を押し倒した。

「ちょっ匡平!!離しやがれ!」

「俺は今とっても楽しい訳ですね〜」

ぐっと力を入れるが酔っ払いには全く通じない。結果手足をばたつかせるのみに収まってしまった。

「はい阿幾くん、だから一緒に楽しくなりましょう」

そして阿幾の口に匡平はグラスを押し付けた。あっ間接キス、と思う暇無く中の液体は阿幾の中に吸収されていく。そしてグラスの中身が半分くらいになった時、ようやく阿幾は解放された。

「は〜い、じゃ次まひるいってみよ〜!!」

阿幾の上から匡平はどくと、まひるの元へ向かう。まひるはというと、匡平との間接キスが嬉しいのか目をキラキラさせて受け入れ万全体勢を取っていた。

「匡平!!私も匡平と間接キスしたい!」

「ぼ、僕だって!!」

「ダメ!だって二人共未成年じゃん」

酔っ払い匡平の中にも未成年という概念はまだあったようで、二人の願いは法律に邪魔されてしまった。

「あぁ、一体誰が収めるんだコレ」

唯一の常識人である勾司郎が頭を悩ませる中、夜は静かに更けようとしていた。

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