上条当麻に絆された……そう言っても過言ではない。彼のもつ"他人を巻き込む力"は良い意味で作用していて、その結果たくさんの人間が救われたという事実は消えるものではない。かくゆう百合子も実にその一人であって、当麻に多大な感謝をしている。―――尤も恥ずかしくて本人には言えないが。つまり当麻は百合子にとってとてつもない恩人であり、何にも代えがたい存在なのだ。

そんな当麻から好きだと言われて、百合子は素直にありがとうと言った。当麻が人を嫌わない性格なのは誰もが知っている。しかし一万人以上殺した経歴をもつ百合子まで好いてくれるとは、なんて寛大なのだろうと。まさに器の大きさが身に染みた瞬間だった。しかし当麻の顔は困惑気味だ。何か間違えただろうかと、百合子は素直に首を傾げた。

「えっと……鈴科さん?もしかして何か勘違いしてます?」

「勘違い?」

事を理解していない百合子に、当麻は心の中で嘆息した。鈍感なのか……、いや今までこういった経験が無いのかと当麻は少し複雑な気持ちになる。生きていれば色恋沙汰などいくらでもあるだろうに、彼女にはそういったものが全く無い。

「………ごめん鈴科」

一言断りを入れ彼女の返事を待たずに、当麻は自身の唇を彼女の頬へ口づけた。さすがに唇同士はマズイと、そこは一歩踏み止まる。途端紅潮した百合子の顔を見て、当麻は疑問を告げた。

「………もしかして初めて?」

こくりと頷くのを見て、本気で唇にしなかったことを褒めた。告白でファーストキスを奪うなど言語道断だ。しかも振られる可能性も大いにある相手に。

「俺の好きはこういう好きなんだけど」

「あ……うゥ…」

狼狽している彼女など中々見れるものではないと思いながら、当麻はじっくり答えを待った。待つのは性分ではないがこればかりは仕方ない。百合子の口が動いた瞬間、当麻の時が止まった。

「よろしくお願いします………」

右手の幻想殺しで一生壊したくない、そんな幻想のような一時だった。



それから二週間、付き合うことに慣れているなどと言えない当麻には、ある悩みがあった。それは"百合子の周りに敵が多いこと"である。比較的公に二人が付き合っていることは知られている。なのに周りの人間は自重しない、それよりか悪化しつつあった。垣根なんて百合子をホテルに誘ったこともあるくらいに。

「どうしたら百合子は俺のものだって分かるんですかね……」

パソコンでお悩み相談などをしたくてスレを立てる。個人情報など入れなければ大丈夫だろう。

PN スフィンクスさん
→付き合っている彼女の周りの男が減らなくて困ってます。もちろん彼等は付き合っている事を知っているのですが、どうしたら離れてくれますかね?

PN キャットさん
→随分リア充な悩みだな。まぁ好きな女に彼氏がいるんじゃ、余計手を出したくなるのは当然だろ。

PN スフィンクスさん
→そういうものですかね…。

PN キャットさん
→まぁ彼女の気が移らなければ良い話だし、あとはお前さん次第だろ。

PN スフィンクスさん
→でも俺初めての彼女で、そういう経験が全く無いんで……(>_<)

PN キャットさん
→その辺は男の雑誌読んで極めろ!!大丈夫、元気だせよ。

PN スフィンクスさん
→ありがとうございます!

PN メルヘンさん
→あれ、終わってんの?このスレ。

PN スフィンクスさん
→ちょっと自分の答え出せたみたいな感じです。

PN キャットさん
→意見は何個あっても良いと思うぞ。

PN メルヘンさん
→いやさ、俺の好きな奴にも最近彼氏できてさ。だからちょっと意見したいんだよね。

PN キャットさん
→略奪側視点からとは……。論争とか起こさないでくれよ。

PN スフィンクスさん
→こういうの慣れてないんで色々お願いしますっ!

PN メルヘンさん
→おっ意外に柔軟な奴だな。まぁ彼女がモテんのが付き合う前からだったら仕方ないだろ。むしろキャットの意見みたいに優しく見守るより奪いたいし。逆にそういうのを彼氏から指摘されて、束縛とかそういう理由で別れてくれたら最高じゃん。

PN キャットさん
→メルヘン腹黒いな。

PN スフィンクスさん
→確かに束縛とかって嫌ですよね……。好きすぎた結果で起きたとしても。

PN メルヘンさん
→彼女がお前のこと好きなら、周りに野郎がいても靡かないだろ。靡いたらお前がそれまでの存在だったってだけだし。下手に詮索するのも良くないだろうしな。

PN スフィンクスさん
→分かった、もう少し様子見ます。ありがとうございました!

掲示板から抜けてパソコンを切った。確かに束縛は良くないし、束縛して破局など悲しすぎる。それに百合子はそれくらいで振り回されないと、心から信頼していた。こちらから迫った形ではあるが、それでも了承してくれたのだから。






PN キャットさん
→にしても上手く立ち回るな"メルヘン"。

PN メルヘンさん
→お前こそ第三者気取りかよ。いつもの馬鹿みたいな口調はどうした?

PN キャットさん
→だからキャットなんだにゃー。

PN メルヘンさん
→あぁ、そういうことかよ。まぁ上条に色々動かれると厄介だしな。その辺気をつけていかねぇと。

PN キャットさん
→アイツだけに甘い汁なんて啜らせる気はないからな。

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