※上条さんが百合子ちゃん好きすぎて他の女の子に酷いです。それが許せる方はどうぞ。





「付き合って……ください」

普段の強い語調を抑え、高ぶる感情を抑えながらの告白を、当麻はどこか冷めた気分で聞いていた。初めての告白なのか、告白の時に流れる雰囲気に当てられている彼女を見ても、当麻は特に何も思わなかった。―――いや、何も思わなかったというのは嘘になる。当麻は彼女に対して『どうして俺に告白なんかしているのか』と思うと同時に、家で待っているであろう"彼女"に申し訳無く思っていた。

「あぁー、その……ありがとう?」

ありがとうなんて気持ちは無いが、ここは汲んでおくのが大人だろう。彼女も勇気を出したに違いない。ただ初めての告白が失敗に終わるのは明確なので、少しでもショックを減らしてあげようと当麻は彼女に優しく接した。

「けど悪い、俺もう彼女いるからさ。お前の思いには応えられない」

俯きがちだった視線が上がり当麻のものと合う。そこには絶望と困惑が刻まれていた。どうやら常にタフな彼女でも予想以上に堪えたようだ。年下が年上に告白する、それだけでも随分なリスクである。

「彼女……いたんだ」

「あぁ。特に公言とかはしてないけどさ」

「………同じ学校の人?」

「いや、学校は違う。まぁ色々経由して…な」

「じゃあ………」

彼女の目は追求する目だ。それを見て当麻は面倒臭いと思った。振られたんだから早く立ち去ってくれとも思った。要は目の前にいる彼女という存在が邪魔だったのだ。彼女が言葉を発する度に"彼女"との時間が減っていく。ただでさえ消費した時間を埋めたいのに、ロスタイムは増えていくばかりだ。

「なぁ、もういいかな」

苛立ちを隠さずに言えば相手の声が揺らぐ。それすらうっとうしいと思ってしまう自分を、当麻は思わず自嘲した。仮にも告白されていた筈だ。男にとって嬉しいであろうこの状況を、当麻は素直に切り捨てたい。全力で走って扉を開けて、中にいる"彼女"を全力で抱きしめたかった。そして"彼女"に今までの不快な気分を払拭してもらうべく傍にいたい。素直じゃない"彼女"は照れるだろうが、そこかまた可愛いと当麻は彼女の言葉の最中考えていた。

「あの子が待ってるんだ」

そう吐き捨てれば真後ろから放たれた電撃が真っ直ぐ当麻へ伸びる。あらかじめ予想していたかのように右手を翳せば、電撃はいとも簡単に消えた。真後ろの来訪者が告白の途中からいたのは知っていたが、まさか手を出されるとは。目の前の彼女―――インデックスは当惑していた。インデックスはいきなり出てきた美琴の存在を上手く飲み込めていないらしい。こういう時"彼女"なら真っ先に正しい答えに行き着くんだろうなと、当麻の脳内は惚気モードに入りつつあった。しかし再度放たれた電撃が強制的に思考を中断させる。美琴の表情は苦々しい、何か嫌なことがあったようだ。

「あんたが……あんたが誰を好きでいようと私は構わないわ。好意を向けられる相手と全員付き合えなんてしない。でも……でもこれはありえない!!あんたはそういう奴じゃないでしょう!」

一般論で言えば美琴は正しいのだろう。少なくとも今までの当麻なら素直に美琴の言葉に頷けた。美琴の誠意ある訴えに同調出来た筈だ。しかし今はどうだろう。当麻にとっての一番が変わった今では、美琴の言葉は響かない。仮に"彼女"に言われていたら、恐らくショックでしばらく立ち直れないだろうに。

「言いたいことはそれだけ?」

「ちょ、待って!!」

「悪いけど急いでるから」

後ろの騒ぎを無視してインデックスの横を通り抜ける。インデックスは精気の無い顔をしていたが、当麻はそれを気にも留めない。インデックスの目から一粒の滴が流れ落ちた。

「とうま、あの白い子のところに行っちゃうの?」

インデックスの不安そうな呟きに、当麻はあぁと返した。インデックスは百合子と全く面識がない訳ではない。しかし会ったのなんて数回程度だ。よく覚えていたなと感心した後で、当麻はインデックスの絶対記憶のことを思い出した。あれがあるならば納得出来る。そしてインデックスの最大の特徴であるものを忘れていたことに、驚きそして自分ながら呆れていた。それほどまでに当麻は、百合子という存在に全て奪われていたのかもしれない。

「とうまは、もう戻ってこないのかな」

「……ごめんなインデックス」

インデックスの想いには応えられない。同時に美琴の気持ちにも。インデックスはそれをすぐに理解した。当麻の中にはインデックスという項目はあってもページは無いのだ。それはとても悲しいことだが、インデックスにはどうしようもない。

「………軽蔑する」

美琴は今にも弾けんばかりの電流を帯電させながら、当麻を睨みつけた。それに苦笑した当麻だったが、二人に背を向けて歩き出す。一応右手の用意はしていたが、美琴は電撃を飛ばしてこなかった。インデックスが止めたのかもしれない。しかしそんなことは最早些事でしかなかった。部屋で待っているであろう百合子の顔を思い浮かべながら、当麻は歩く速度を早めた。

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