天気予報を見るべきだったと、桐ケ谷直葉は後悔していた。家を出る際はまだ太陽も出ていて比較的暖かかった為、今日一日は大丈夫だろうと思ってしまったのだ。そのため寒い一月という気候の中、直葉は室内着とたいして変わらない格好でコンビニまで来てしまった。そして暖かな店内でついつい立ち読みをしてしまい、気がついた時には辺りは暗くなっていた。そろそろ帰ろう、と会計を済ませ店内から出る。途端直葉を襲ったのは、吹き付けてくる冷風だった。
「寒っ!!」
ぶるりと体を震わせて目を開ける。そこにまた吹き付ける風に対して、直葉は反射的に店内に戻ってしまった。出ていった客が戻って来たことに驚いたのか、店員とぱちりと目が合ってしまう。思わず苦笑した直葉は外を一瞥してため息をついた。
「家まで歩いて十分、大丈夫だよこれくらい」
自分を励まして直葉はもう一度外へ出た。冷風に身が竦むが気にしてはいられない。とにかく早く帰ろうと家まで歩き出すと、身を何か暖かなものが包んだ。
「スグ……そんな格好で何してるの?」
「お兄ちゃん………」
振り返ると、そこには直葉の兄である和人が立っていた。しかし何故か怒り気味である。何か悪いことをしたかと不安になる直葉に対して、和人は怒りを隠さずに直葉に言った。
「もう一度言うよ。何でそんな格好で歩いてるの」
「えっと、コンビニにちょっと……短い距離だし良いかなって。それにお兄ちゃんだって薄着じゃ―――」
言いかけて直葉は止めた。和人が薄着の理由はただ一つ、彼を暖めていたものが直葉に掛かっているからだ。和人のコートはとても暖かい。そしてそれが直葉に今まで自分がどんな状況だったかを考えさせた。
「帰るよ、スグ」
「うん………」
直葉よりやや大きい和人の服の裾をきゅっと握る。まるで和人に抱きしめられているかのようで、直葉は顔に熱が集まるのを感じていた。和人はきっと今寒いに決まっている。しかし和人の熱を、直葉は離したくなかった。
家に帰るまで二人は無言だった。しかし和人は一度もくしゃみや身震いをせず、それがまた直葉の胸を熱くさせる。兄である和人にこんな感情を抱いてはいけないと直葉は思うが、直葉からコートを受け取る動作、それを自身の腕に掛ける動作、部屋に戻っていく動作、それら全てに目がいってしまう。
「スグ、手出して」
急に言われた言葉に対して考えもせず手を差し出す。すると和人は直葉の手をぎゅうっと握った。
「お兄ちゃん!?」
「やっぱり冷えてる。手袋も貸したほうが良かった?」
純粋に、素直に心配してくれている和人に、直葉の中で何かが小さく弾けた。握られた手を直葉が握り返す。和人は少し驚いたようで、目をぱちくりさせている。
「お兄ちゃんの手、暖かいね」
優しさに溢れた手をふにふにと握る。握られることが恥ずかしいのか、和人は直葉から目を離す。そんな可愛らしい姿に、直葉はにこりと笑った。