1月1日、大門カイトはノノハから呼び出しを受けてノノハの家へ来ていた。カイトがお正月にノノハの家に行くことは珍しくない。むしろ毎年の恒例行事と化している。だが今回は荷が重かった。その理由は、昨日ノノハから届いたメールだ。
「カイトへ、明日はお正月だから待ってます。遅れるようならメール頂戴ね。あと元日は両親旅行だから気を楽にしてていいからね」
読み上げれば読み上げる程問題な文章。なぜ元日に旅行に行くのか、ノノハの両親に問い詰めたい。いや、旅行自体は構わないのだ。問題は"何故カイトが来る日に旅行に行くのか"だ。恐らくノノハの両親はカイトに全幅の信頼を寄せている。確かに幼なじみとして今まで付き合って来たのだから。だからか、年頃のノノハと年頃のカイトを残して行っても問題無い、と考えているのだろう。しかしカイトから見れば余計なことになる。カイトはきちんと理性をもつタイプではある、が、それでも男なのだ。思春期真っ盛りの男、高校生なら当たり前。そんなカイトにこの状況は酷過ぎる。
「据え膳ってやつなのか、コレ」
そう呟くとパタパタとスリッパの音がした。そちらを向くとちょうどノノハがこちらへ向かってくる。
「カイト、どうしたの?元気無いよ、睡眠不足?」
「いや、色々悩むことがあったんだよ」
「そっか……。あっ、余計かもしれないけどアナ達呼んで良いかな?」
「アナ達?……あぁ!!是非とも呼べよ、みんな一緒が良いよな」
「分かった、ちょっと電話してくる」
携帯でアナ達に電話を掛けるノノハを見て、カイトは心内でガッツポーズをした。アナ達がいればこの煩悩を消してくれる筈。しかしアナ達という言葉にギャモンが含まれることが気掛かりだった。
「ギャモンの奴、今頃浮かれてんだろうな」
お正月をノノハと過ごせる特権を自ら提供したみたいでもやもやする。しかしアナ達を呼ばなければカイトが破滅してしまう。背に腹は変えられないとはまさにこのことだ。
「みんな来れるってさ。賑やかなお正月になりそうだね」
「あぁ、良かったなノノハ」
にこりと楽しそうに笑うノノハを見て、カイトはとても嬉しい気分になった。当たり前だ、好きな人が笑っているのだから。そしてそれを見ているのはカイトだけ。
「よし、そうなったらノノハクッキーもっと焼かないとね」
「ちょっ、あの殺人兵器を増やす気かよ」
さすがにノノハクッキーだけは受け入れられないので、そこだけには難色を示す。これはカイトの命に関わる問題である。カイトの反応は毎度よく見ているため、ノノハはクッキー作りを止めた。
「久しぶり〜、元気にしてた?」
「久しぶりノノハ。アナはずっと絵を描いてたよ。そしたら画商さんがたくさん来てたくさん買って行ったの」
「僕はパズル解いてたんだ。まぁパズルも悪くないかもね」
「よぉノノハ、カイトに変なことされてないだろうな?」
「ギャモンくん変なこと言わないでよ」
とりあえず挨拶は終わったのか、各々がノノハの家へ上がっていく。お皿を出したりと手伝いをしていたカイトも皆と新年の挨拶をした。
「にしてもノノハとお正月か……お前が羨ましいぜ」
「まぁ幼なじみって奴だからな」
ノノハの家の物の配置は大体知っている為、まるで家族のように手伝いをしているカイトにギャモンが声を掛ける。他の三人は違うことに夢中のようで、二人だけの会話だ。カイトとギャモンの仲は正直あまり良くない。だからか、二人できちんとした会話をすることは珍しかった。
「なぁ、カイト。最近分かったことがあるんだが…」
「分かったこと?」
「多分になるが、アナとキュービックの奴ノノハのこと好きじゃねぇか?」
「はっ!?えっマジ、友達としてじゃなくて」
「いや、多分恋愛感情。知らないうちに敵が増えてんだよ」
「………呼ぶべきじゃ無かった」
ギャモンは態度があからさまなのでカイトもすぐ気づいた。しかしキュービックはノノハに懐いている感じで、アナに関しては女友達同士にしか見えない。知らない間にカイトは二人を視野に入れていなかった。
(お正月にアナ達を呼んだのは間違いだったか………)
わざわざ恋敵を懐に入れてしまったのだ。知らなかったとしても痛恨のミスである。カイトにとっても、ギャモンにとっても。
「でも、ノノハ楽しそうだから良いか」
向こうではお正月の準備を三人でしている。もうすぐカイト達にも呼び出しが掛かるだろう。働き盛りの二人は確実に駆り出される。賑やかなお正月になる、そうカイトは思ってノノハ達の輪に加わった。