「冬だね、寒い」
手に息を吹き掛けながら、アレンは神田と共に歩いている。刀を使う神田同様イノセンスを隠したいアレンは、通常手袋をしていて今日も持ってきている。しかし方舟から街に出た途端、アレンは手袋を外した。もちろん外が寒くない訳が無い。意味が分からないアレンの行動に、神田は目を細めただけで何も言わなかった。
「寒いなぁ」
「じゃあ手袋はめろよ。自分から寒い格好してるくせに文句言うんじゃねぇ」
「ん………、何となく」
またしても意味が分からないことを言うアレンに無視を決め込んだ神田は、アレンの数歩先を歩く。アレンは神田の後に素直についていった。アレン一人で行けないことを今までの経験で十分理解している。
「ねぇ神田、知ってましたか?………イノセンスって感覚無いんですよ」
「………そうなのか?でも今までそんな素振り見せなかっただろ」
「えぇ、みんなの前ではそういう風に振る舞っていましたから」
そう言ってアレンは右手の手袋をはめた。右手は白く、左手は黒く、対比しているかのような両手だ。
「右手は暖かいんです。こう、包まれてる感じみたいな。でも左手は何も感じない。感覚が麻痺している、そんな感じ」
笑ってアレンは言うが、それはとても辛いことだ。目が見えない、耳が聞こえない―――感覚が無いことはそれらと同様だ。生きていく上で大切なカケラをアレンは失っている。
「だから、寒いって右手が感じると左手も感じてる気がするんですよ。そしたら嬉しくなってしまって……。そんな感じなだけです」
「………なんでそんな話を俺にした?」
率直な疑問をアレンに投げかけた。神田とアレンは犬猿の仲というやつで、それは皆と本人達がよく知っている。そんな弱い所を神田に見せる筈が無いのだ、リナリーやラビは別にして。
「僕、神田との距離好きですよ。口では不満ばかり言ってますけど」
「お前は誰とでも仲良くするんだろう?」
「まぁ大概には。でもそれって処世術じゃないですか。大した意味無いですよ」
「随分な言い方だな、それ」
「つまりは、僕は神田のこと結構信頼というか、拠り所にしてますよっていう話です」
無邪気に笑うアレンに神田は驚いた。アレンは神田が嫌いで、それは神田も同じ、そう思っていたのに。どうやら現実は少し違うようだ。お互い少しは信頼している、弱みを見せるくらいには。
「………昔な、アクマを狩っていたらコートの裾踏んで転んだ」
「えっ、神田馬鹿ですか?さすがにそれは無いですよ。あっ、これ皆に広めてこようかな」
前言撤回、アレンと神田は仲が悪い。