「答えてもいいですけど、それよりやることがあるのでは?」
「あ?」
「ですからあなたたちの目的はイノセンス回収でしょう?こんなことしてるよりも、早く吸収して出た方がいいんじゃないですか?」
「生憎、アレンの意識が飛んでるんでね」
「………話聞いてました?」
「なんだとっ!?」
「ですから私はイノセンスです。私があれを吸収すれば良いんでしょう」
「そんなこと出来るわけ……」
「出来ますよ、ほら」
その存在が彼女の方へ進んでいく。彼女は気にもとめていない。放心状態なのだろう、この存在に自分という存在を否定され、見下された。それが予想以上のダメージだったのだ。その存在が彼女の頭に手を乗せる。
「あ、最後に言っておきますけどね」
彼女はすこし上を向く。
「私は……そこのエクソシスト共よりも、仲間であるあなたのほうが何倍も好きですよ」
そう言った時のその存在の表情からは、嘘が全くなかった。本心からというのがよく分かった。
「あなた……そういうことは最後に言わないで欲しいわね」
「恨まれながら吸収するのは、気が引けるだけです」
彼女はその存在のなかに吸収されていく。数秒で終わり、何事もなかったかの様になった。
「これで結界は消えました。もう出れるはずですよ」
そう言うとその存在は二人を素通りし、アレンの元へ向かった。
「おい!おまえアレンに何を……」
「別に運ぶだけですよ。早く教団に戻って寝かせてあげたいので」
「んなこと俺らが許すと思ってんのかよ」
「危険人物を教団に入れるわけにはいかないさ」
「……じゃあ室長と連絡を取ってください。あの方なら話が通じると思うので」
「まぁ報告もあるし……。ユウちょっと待ってて、通信してくるさ」
そう言うとラビは走って行ってしまった。
「あなたは……本当にイノセンスが実体化しないと思っていますか」
唐突にその存在が神田に話しかけた。
「当たり前だ」
「そうですか」
「…やけにしおらしいじゃねぇか。やましいことでもあんのか?」
「いえ、ありませんよ。ただ―――自分の存在を全否定されるのは少し辛いですね」
神田は少し驚いた。今までこの存在はむかつくとしか認識していなかった。なのにここにきてこんな一面を見せるとは。
「あなたは……自分のイノセンスが実体化しても、同じことを言うんですか?」
「実体化なんてしねぇよ」
「だからあなたたちでは話が通じないんですよ」
「なんだと?」
「あなたたちは、イノセンスに関する研究が最終段階までいったとでも考えているんですか?」
「………どういうことだ」
「ですからあなたたちが率先してしているイノセンスの研究――あれが最終段階までいったと考えているんですか?」
「んなの知るかよ」
「だから駄目なんです」
「てめぇ、」
「未知なることへ対しての追求心……それがあなたたちには足りない。自分の中の知識に無いことを全て異端と判断する、そのような心では駄目だと言っているんです。あなたは現実、目の前でイノセンスの……私の擬人化を見た。それをまず受け入れなければ。恐らく室長なら理解出来ると思いますがね」
そんな会話をしているうちにラビが戻ってきた。
「わりぃ、遅くなったさ」
「コムイは何て言ってた」
「………アレンウォーカーを連れて本部へ帰還。あとイノセンスと思われる人物を保護するようにって」
「保護だと!?」
「やはり室長は理解力が高い方ですね。今の私の重要性を理解していらっしゃる」
「どういうことさ」
「あなたたちは私のことを異端と考えていたようですが、本部の人間から見たらイノセンスの実体化は、イノセンス自体の力が高いということが証明されたことになる。本部の人間の中には、私がハートの存在と思っている人もいるんじゃないですか?そして早急に保護してこの情報をノアへ流したくないという思いもあるのでは?そこの単細胞とは違いブックマンなら理解できると思ったのですが………買いかぶりでしたね」
「単細胞だとっ!!」
「違うんですか?アレンの名前を覚えていないようでしたから、てっきりそうかと思ったのですが」
「なんか………お前ってアレンとちょっと似てるさ」
「おい、馬鹿ウサギ。こいつはお前が相手しろ。まだ喋らないモヤシの方がましだ」
「私もあなたと会話するくらいならブックマンの方がましです」
「分かったから、とっとと行くさ」
こうして三人+一人は教団への帰路についた。