「お久しぶりだね、一方通行」
にやりと笑う番外個体、その正面には白い服で身を包んだ一方通行とぐったりとした打ち止めがいた。否、打ち止めの方は一方通行に抱えられている。その光景はかつてのロシアでの対峙のようで、無意識にその時の情景に思いを馳せた。
「―――、本気なンだな?」
「本気も何も、現状を見なよ。あんたの大切な打ち止めは虫の息で私は生きてる。決定的な証拠じゃない?」
「そォかよ、分かった」
口では言いつつもまだ一方通行から懸念の色は消えない。それ程信頼されていたのかと、番外個体は改めて自己を再認識した。
(でもね一方通行、もう遅いんだよ)
どんなに信じてくれていても、どんなに疑われても、番外個体は歩み始めてしまった。今更引き返せるような道ではないことは重々承知である。だからこそなのか、番外個体は臆することなく言葉を発した。
「選んで一方通行。私を殺してその子を助けるか、私を見逃してその子を殺すか。二つに一つ、取捨選択だよ」
答えが一つしかない問いを敢えて一方通行に出す。もちろん答えなんて聞かなくても分かっている。それでも番外個体は、はっきりと一方通行の口から聞きたかった。
「お前は……、いつもムカつくことばかり言って、」
「うん」
「平気で人の傷を刔るようなことをして、」
「うん」
「……、人間らしくて」
「うん」
「お前がいてくれたことは、悪くなかったな」
「そう」
「―――悪ィ、お前を救えなかった」
体を切り裂く衝撃波が、体内を駆け巡っていく。血液が四方に散る様を見て、番外個体の体は地に沈んだ。
「これで……、いいんじゃない?………あんたが…、あの子を…見捨て…る筈な…いし」
「………、」
打ち止めを地に一度置き、一方通行は番外個体に近づく。
「安心し…てよ、私を……殺…せばウイル…スは……消える」
「そォかよ、」
「ミサ…カを哀……れ…まな…いでよ……見苦しい」
「分かった」
番外個体の意向を汲むかのように、一方通行は番外個体の体を抱き立った。そして大切なものを扱うかのように打ち止めのいる場所へ戻った。
「ちょっと、何して……」
「お前が選べと言ったから、俺はガキを助ける選択肢を選ンだ。お前の指示に従ってやったンだ、次は俺が決める番だろ」
「………助ける気?」
「殺させねェよ、一人たりともな」
「甘い……ねぇ、甘すぎ。でも―――」
ごめんね、と番外個体は呟いた。謝罪の筈なのに、それは何かを覚悟するような声音で。一方通行は急激に不安に襲われ思わず番外個体の体を揺すった。しかし返事はない、それどころか一方通行の体には、重みを増したような感覚が走った。
「……馬鹿野郎が、始めから死ぬつもりだったのかよ」
番外個体は一方通行が差し延べた救いの手に縋らなかった。それどころか全てを自身で終えてしまったのだ。一方通行の頬を、滴が一滴ぽたりと流れ落ちた。その滴が滴り落ちて、番外個体の頬に落ちる。まるで、番外個体が泣いているかのようだった。