鴉の契約者をギルバートと決めたグレンは、ジャックがどんなに訪れようとも戸を開けなかった。ジャックはギルバートに対して慈悲を抱いているからか、やたらと関与してくるがギルバートはグレンの従者、グレンに全権が委ねられるのは当然のこと。ましてやギルバートはバスカヴィルの民だ。尚更グレンの権利下にある。
ジャックはきっと理不尽だと思っているのだろう。何故ギルバートを契約者にしたのか、まだあんな子供をと。しかしグレンからして見れば、ギルバートを鴉の契約者にしたのはギルバートを守る為である。もちろん適性云々の話はもちろんあるし、それも十分考慮してある。しかし適性だけなら他にいない訳ではないだろう。
「ま、ますたー……?」
グレンのことが怖いのか、ギルバートはたどたどしく名を呼ぶ。そんな怯えたギルバートに対してグレンは、ジャックにでもあまり見せない穏やかな微笑みを見せた。
「どうした?」
「いえ、お茶の準備が出来たので……」
「そうか、なら行こうか」
席を立ってギルバートと共に庭園へ向かう。ギルバートはグレンの数歩後ろを歩いている。そんな従者の姿を見てグレンは足を止めた。
「ますたー?どうかしましたか?」
「ギルバート、隣で歩かないのか?」
「ますたーの隣なんてダメです!」
主人と従者の関係のことだとしても、グレンはそれを気にせずにギルバートの手を引いた。大人であり主人であるグレンの意志を拒むことなど出来ないギルバート、そのまま隣を歩いた。
「ギルバート」
「はい……」
「鴉はお前を必ず守るだろう。だからお前は必ず生きろ」
「ますたー?」
言われたことが分からないのだろう。疑問符を頭に浮かべているギルバートに向かって、グレンは柔らかな笑みを見せた。