3月13日〜4月8日
上百合文。学パロです。
当麻の朝は早い。自身のお弁当と二人分の朝食を作る必要があるからだ。しかし大きな理由として、朝早くに登校するというものがある。もちろん朝早く来れば商品券が貰えるなんていう主婦が喜ぶ特典などある筈もない。それでも、毎朝早く出かけるのだった。
窓側の一番後ろの席、そこがお目当ての彼女が座る席だ。黒いセーラー服から出ている白く細い手足は、それだけで彼女を目立たせる。そのうえ髪まで白ときたものだ。学校内で天使とまで呼ばれている。それだけなら美少女で済むだろう。しかし彼女は学園都市レベル5にして最強、別名一方通行。本来この学校に第一位が来るような魅力も利点もない。何せただの低能力者達の集まりだ。それでも彼女はこの学校に通い、授業を受け、それなりに学校生活を送っている。彼女の現在保護者とされている黄泉川愛穂の意向らしいが詳しいことは明かされていない。
百合子はとにかく朝早くに登校してくる。当麻は一度として彼女より早く来たことがない。当麻が教室に着いたときは二番、彼女は教室で本でも読んでいる。当麻が走ってきた音に気づいたのか、彼女の視線が本から当麻に移り、その赤い目と当麻の目が合った。
「あー、なんていうか鈴科ってホント早いな」
「黄泉川のやつが早くに起こすンだよ。しかも杖だから通うのに何倍も時間かかるしなァ」
「それにしても早すぎやしないですか〜。上条さんはいつまで経っても鈴科に勝てない気がする」
「当たり前だろォが。お前が俺に勝とうなンざ百億年早ェンだよ」
「百億!?上条さんはそんな下に見られてたのか」
「ご愁傷様だなァ。精々一億年くらい減らせるように頑張ることだな」
昔の百合子ならばここまで会話が続くことはなかった。しかし他者との触れ合いを通じてここまで出来るようになった。会話なんてと笑うかもしれないが、百合子にとっては大きな障害だ。なんとなくだが当麻に対してその障害は薄かった。過去に大きく百合子を変えたのが当麻だからかは分からないが、当麻にとって嬉しいことだ。好きな子と近づけることが嬉しくない人なんていないだろう。
「あの白い奴は元気か?」
「えっと白……インデックスのことか」
白と聞くと百合子が最初に出てくるのだが、自分のことを元気か聞くような人はいない。他に白と聞くと思いつくのは、白い修道服に銀髪のインデックスくらいだ。
「相変わらず元気だぜ。いや…元気すぎて食費が…」
「あァ…そういえばよく食ってたな」
「インデックスの食費が少し減ったら上条さんは神に対して土下座してもいい」
「そこまでかよ。なンか大変そうだな」
「ホント好きなら少しは援助して欲しいよな」
「?」
「あぁこっちの話」
遠くにいる赤髪長身喫煙神父や黒髪美形帯刀女皇を思い出しながら、当麻は大きなため息をついた。あと今月は五日もあるのに、食費はほとんど残っていない。ストックの素麺も尽きて絶望状態。
そこに最後の希望が舞い降りる。
「じゃあ家来るか?」
「……はい?」
「食費ヤバいンだろ?だったら家で食ってくかって聞いてンだよ」
「えっと、でも鈴科の家って打ち止めとかいるだろ」
「炊飯器で作るよォな飯に人数なンざ関係無いだろ」
「でもインデックスの食欲はヤバいぞ!ストップなかったら食べるの止めないし」
「黄泉川がどうにかすンだろ。アイツ、ガキ相手の扱いは上手いからな」
「でも……」
「チッ、面倒臭ェ奴だな」
「俺がお前に来て欲しいンだよ」
「これで満足ですかァ?」
「行きます行きます絶対行きます。むしろ行かせて下さい」
「じゃあ先帰ンなよ。材料買って行くからな」
好きな子に家に来てほしいと言われ、嫌な気分な人がいるだろうか。いたらそいつの幻想をぶち殺してやりたいと思う。それほどまでに気持ちが高まっていた当麻は、赤くなった顔を隠すのに精一杯だった。