2月22日〜3月12日
昼下がりのファミレスに、当麻と土御門と垣根…そして百合子はいた。仕事合間なのか人はかなり入っており時間の割には喧騒だった。普段ならば学校に行き有意義と呼べるか分からないような生活を過ごす時間だ。しかし今日は創立記念日、学校ごとに違う公式な休みだ。よってこのファミレスには生徒も多数いる訳で。見慣れない顔ぶれのためか、当麻達に話し掛ける生徒はいなかった。
「にしても驚きだよなぁ」
当麻の声に呼応するように、百合子の顔が上がる。彼女が手にしているのはドリンクバーのコーヒー。ただ、いつもと違うのはカップの横に砂糖とミルクが置いてあることだ。普段の彼女ならコーヒーはブラック、何もいれない派だ。しかし彼女は違う、ある意味で変わった。
「上やん、俺だって同じこと考えてるにゃー」
おどけた口調だが微かに動揺が混ざっていた。彼らしくない様子だが、誰も何も言わなかった。
「第一位がこんなんだとは。こっちも上手く躍らされた感じだな」
端正な顔立ちで周囲の女性の視線の的である彼は、隣に座る百合子の顔を覗き込む。百合子は垣根がじっと見てくるのに堪えられないのか、顔を少し赤らめて俯く。
「ありえねぇよ。なに、この反応。いつもなら『何見てンだよ三下が。殺されてェのか。』って反すだろ!」
「落ち着けよ垣根、鈴科が怯えてるだろ」
「一方通行が怯えるとかありえないにゃー」
「あの……」
ようやく声を発した百合子に視線が集まる。あぅ…と唸りつつも必死に話そうとするあたり、あの一方通行と同一人物には見えない。
「えっと、実験途中で精神が弱かったので人格が二分されてしまって。今までの私はある意味違うと言うか…」
事の顛末は芳川桔梗から聞いていたが、受け入れるとなると話は変わる。つまりは今までの百合子は偽りの百合子、しかしこれまで接してきた百合子は今の百合子ではない。鈴科百合子を闇に属していた人格で理解すると、今の百合子こそ偽りなのだ。そこが身体が受け入れられない変化。だが環境の変化を受け止められないのは百合子も同じ。ということでこの三人が抜擢された。
「上条さんには酷いことしました。妹達の件で巻き込んでしまった。土御門さんも仕事で迷惑かけましたし、垣根さんなんて死ぬ手前でしたよね。……本当に迷惑かけてばかり。私はどうしたら…」
百合子は性格が…人格が変わってから急変した。威勢が消えたというか弱い部分が増えたのだ。能力は依然同じであるにもかかわらずだ。百合子曰く「私の強い部分は片割れがもっていった」そうだ。何はともあれ彼女を救えるのは彼ら三人なのだ。
「百合子ちょっと待ってて」
当麻達は一度席を外すとトイレに駆け込んだ。そして三人向かい合う。
「…どうするか決めようと思う」
「やっぱりそうくるか。俺は意見は一つだにゃー」
「みんな考えてることは同じだろ」
「「「百合子の面倒は俺が見る!!」」」
「上やん!お前にはインデックスがいるだろうが!」
「インデックスは大切だが、鈴科の問題とは別だ!それにインデックスという女の子がいるんだ、鈴科だって安心だろう」
「舞花の方が気を配るにゃー。ドジっ娘インデックスじゃ心許ないだろう!」
「なっ!俺んちの方がリラックス出来るぜ!」
「理由があるのか、上やん?」
「何となくだ!」
「お前達女いるならダメだろ。俺はフリーだからセーフ」
「ふざけっ!あのドレス女とイチャイチャしてろよ」
「心理定規は関係ないだろ。俺の本命は百合子だ」
「でも性格変わった百合子を受け入れてないんだろ?それを愛とは呼ばないにゃー」
「二人がかりで攻めやがって」
「「邪魔な奴は先に消す」」
「戦闘は終わったんだし平穏に行きようぜ」
「じゃあ垣根脱落な」
「違ぇよ。未元物質発動するぞ」
「そげぶするけどな」
「上条とタイマンしても勝てる気がするぜ」
「まぁ真剣に考えようぜ。面倒見るっていっても一週間だにゃ。何か変わる訳でもないんじゃないか?俺は諦めないが」
「最後がものすごくいらないな」
「その前にさ…鈴科待たせて悪いかな?」
「…そもそも今日呼ぶ必要なかったにゃー」
「長くなるなら解散か?」
「じゃあ一旦鈴科は帰そう」
「「「帰った!?」」」
「えぇそちらのお客様なら三つ子の方々に」
「どんな服装だった?」
「常盤台中学の制服かと」
「妹達………動きが早いな」
「あと渡す物を預かっていますが」
店員は小さな紙を当麻に渡す。開くとそこには「残念ながら百合子は私達のものですと、ミサカは百合子と時間共有権を主張します。貴方達はトイレで仲良くしていて下さいと、ミサカはカオスな状況に笑いが吹き出すのを止めています」と書いてあった。