「………暇だな」
パンドラ内のとある一室、そこでアリスはオズ達を待っていた。いつもならアリスはオズ達と共にいる。しかし今日はパンドラ内での会議やらで出席する必要があった。シャロンは四大公爵家の一員として参加、従者であるブレイクももちろん参加。ギルバートも体調不良で参加出来なかった当主の代わりとして参加していた。つまりアリスのみが出席の必要が無く、最低限の監視のみでこの部屋に幽閉されている訳である。
「オズの奴……、私を一人にするとは下僕としてダメだな全く」
と悪態をつくものの、実際寂しいのも事実。一人では話すら出来ないのだから。基本的に退屈というか暇が苦手であるアリスは休むという単語に中々縁が無い。
「誰か話し相手くらいいないのか」
「随分と暇なようだな」
突然の声に思わず振り返ると、そこには鴉がいた。いや、普通に考えれば烏が留まっているくらい大したことはない。しかしパンドラの敷地内に烏など入っては来ない、仮に入って来ても言葉を発するなど到底ありえないことである。
きっと幻聴だろう、そう思った、思いたかった。しかしアリスには分かる。いや、チェインだから分かる。目の前にいるのは普通の烏ではないと、鴉であると。
「何故おまえが此処にいる?」
「血染めの黒うさぎ(ビーラビット)に会いに来ただけだ」
「私に?殺しにでも来たか」
ニヤリと好戦的な笑みをアリスがするが鴉は反応しない。ここでアリスは鴉に戦闘意欲が無いことに気づいた。アリスも無抵抗の相手に対して奇襲をかけるような人間――チェインではない。
「私に近づいてきたチェインは全て私を殺そうとしてきた。おまえは違うんだな」
「そこらの低欲で底辺のチェインと私を同じに括るな。チェインとしての格も質も違う」
少し怒ったのか、目が吊り上がり気味である。しかし人ではない、鴉である。鴉の顔など見て表情や気持ちが分かる人などそう多くは無いだろう。
「で、用はなんだ。もう私とは話したぞ」
「臆するなビーラビット。敵意も何も無いと言ったら嘘になるが今貴様に手を出す気はない」
貴様という呼ばれ方が腑に落ちないが、貴様という呼び名は本来目上に使うものだと昔オズに言われたことを思い出す。確かに貴は敬う言葉であり様は敬意を表す言葉である。だから本来ならこれは丁寧語だ。
「ただ主人が仲良くしているチェインだから、少し気になっただけだ」
「主人………あぁヘタレワカメのことか」
アリスが思い出したかのように言った瞬間、アリスの横を何か鋭利な黒いものが通過した。そして綺麗な音を立て、黒いもの―――鴉の羽が壁に突き刺さっていた。
「主人への愚弄は私が許さない」
「ふん、随分と甘いチェインだな。主人に気を許しているのか」
「下等なチェインになる程契約者との繋がりは薄れていく。現に貴様は主人であるオズ=ベザリウスに気を許すどころか寄せているだろうに」
「オズは下僕であって主人ではない!!」
「そうか。まぁ私と主人は均衡、主人も下僕も関係性など在りはしないがな」
「おまえは一々五月蝿い奴だな。知性があるチェインは面倒極まりない」
しかし話し相手がいないよりかはマシなのか、何かと話しかけるアリス。それに律儀に応えていく鴉。二人………二匹の密談は結局四人が帰るまで続いた。
「ギルバート君、どうかしましたカ?」
「いや、やけに疲れていて。まるでチェイン使った時みたいだ」