「あれっ?なんか声が聞こえません?」

アレンがそう声をかけると二人も耳をすませる。

(こ……っち。こっ……ちだよ)

するとかろうじて声が聞こえた。

「ホントだ。ホントに呼んでるさ」

「イノセンスが呼んでるのか!?」

「とにかく向かいましょう」

三人は声の元へ向かった。



(それにしても上手くいくもんだなー)

アレンは走りながらそんなことを考えていた。二人とも完全にイノセンスに呼ばれてると思っているらしい。

「あっ声が消えた」

気がつくと声はもう聞こえなくなっていた。

「この辺りを探せってことかよ。ったく初めから言えばいいものを」

「そうだよなー、なんで今更声が聞こえたんだろう?」

(まずい………疑ってる?)

アレンとしてはこの状況はマズイ状態だった。

(とにかく早くイノセンスを………)

「早く探しませんか?場所も特定出来たんですし」

アレンとしては促したつもりだったのだが、これか大きな仇になった。

「アーレーン?なーんかおかしいさ」

「そういやモヤシ、お前声聞いた時そんなに驚いてなかったよな」

「アレン……。オレらに何か隠してね?」

「えっ?別に隠してなんか……」

二人の目は真剣だった。

(あぁ……これは隠しきれそうにないなぁ)

「実はさっきから声聞こえてたんですよ」

「はぁ?何で言わなかったんさ!!」

「いやー空耳かな?って思ってて」

「チッ、てめぇが早く言わねぇからこんなにかかったんだろうが」

「はは……すみません」

どうやらアレンへの疑いは晴れたらしい。

「じゃあ行くとしますか」

三人は森の奥深くまで進んでいった。



少し進むと小さな祠があった。中には小さな水晶がある。

「これ……さ?」

「別になんともねぇじゃねぇか」

「そうですよね。別に変わったところなんて」

《アレン、このイノセンスは……》

いきなり声が聞こえたので驚いたが、どうやら二人には聞こえていないらしい。この声は本来その場にいるものには聞こえるものだが、アレンにだけ聞こえるようにわざわざしているということは……それだけ緊急な状態ということだ。

《アレン、返事はしなくて結構です。このイノセンスは通常のイノセンスではありません。恐らく本体はこれではありません。まだこの近くにいます》

アレンが周りを見渡すと、おかしな所は見当たらなかった。

(おかしな所はないみたいだけど……)

アレンは何か不気味なものを感じていた。とりあえず三人で辺りを探すということになった。

「っても祠以外何にもねぇさ」

「あんな声信用しない方が良かったかもな」

二人がぶつぶつ言いながら歩いてる後ろで、おどおどしながらアレンは歩いていた。

(あぁ……みんな好き放題言っちゃって。後でいろいろ言われるの僕なのになぁ)なんてことを考えながら。

「ねぇ何をしてるの?」

突然の声に三人が武器を構えて振り返ると、10歳ほどの女の子がいた。ラビがすかさずアレンの左目を見るが、反応はしていなかった。アレンが恐る恐る彼女に聞いた。

「キミはどうしてこんなところに居るのかな?」

「あのね、待ってるの」

「こんな森の中で誰か待ってるんさ?」

「うん!!あのね私……お母さんを待っているの」

「お母さんを……?」

ラビの脳内ではこんな森の中に女の子を置いていくなんて考えられなかった。

「おい、あの目見てみろ」

神田に言われ二人が彼女の目を見た瞬間、彼らを寒気が襲った。

「おい、あの目って」

「恐らく……イノセンスだと思います」

彼女の両目は普通では考えられないような色をしていた。

「あの子………もしかして」

「あぁ、恐らく捨てられたんだろうな」

親としては耐えられなかったんだろう。自分が産んだ子があんな奇怪な目を持っていたなんて。10年も育てただけでも、大きなことだろう。しかし神田だけは彼女に対して、違う感情を持っていた。同情ではない、もっと違う感情を。

こんな女の子を一人森の中に置いて行くのは不安だったため、三人が付き添うことにした。

「この子教団で引き取るんですよね」

「当たり前さ。適合者なんだし」

「あの子、教団では寂しい思いしなければいいんですけど」

「まぁ科学班あたりが可愛がるんじゃない?」

「おい……お前らさっきから聞いてみれば妙なこと言うじゃねぇか」

「妙なこと……って?」

「はっ?お前ら気付いてなかったのかよ」

「気付くって何にさ?」

「だから……」

「あいつ………もう死んでんだろ」

一瞬の静寂に身を包まれた。

「えっ……だって確かに目の前に」

「そうさ、じゃああれは幽霊だって言いたいんさ?」

「確かに実体化はしてる。でも生気がねぇんだよ。おそらくイノセンスの力ってところだろうな」

「そんな………」

「マジかよ」

二人はそのことに驚きすぎて気付けなかった。あの女の子がこの会話を聞いていたこと、そして彼女の両目が淡く輝いていたことも。唯一気付いていたものもいたが、その存在はまだ明かされていない。結局何も無かったため、三人は祠まで戻ってきた。すると先ほどまで黙っていた女の子が急に笑い出した。

「な、なんなんさ!?」

「急に……笑い出した?」

「チッ、イノセンスが発動しやがったのか!?」

「へぇ〜私がイノセンスってやっぱ気付いてたんだ〜」

彼女のまとっていた空気がだんだん変化していく。

「一つ聞きたい」

神田の澄んだ声が響く。

「あら、私に何か?」

「この結界を張ったのはお前だろう?何故そんなことをした」

しばらくの沈黙の後……彼女は告げた。

「この子はね、可哀想な子なの。親に生まれたときから虐待されてた。まぁ原因は私なんだけどね。正直捨てられる時は、やっとだなって思ったわ。でもね、この子は違う。この子は捨てられても親を求めた。自分にあんなひどいことをした奴らを、親として求めたのよ。私はその思いに呼応してこの子を蘇らせたの」

「ちょっと待って下さい。じゃあ貴方は結界を張ってはいないんですか?」

「結界?知らないわよ、そんなの」

「じゃあ誰が結界を?」

「だーかーら私は知らないって言ってるでしょ?」

三人は何がなんだか分からなくなってしまった。

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