「エリー、話があるんだ」
アーネストがエリオットの名を呼ぶ。目に入れても痛くない程アーネストはエリオットを溺愛しており、それは誰の目から見ても明らかだった。
「エリー、お前はアイツらとは違うんだ。近づいちゃ駄目だぞ」
「アイツら?」
「あぁ、俺はアイツらをナイトレイ家の一員とは認めない」
当時のエリオットには養子だとか嫡子だとか分からなかった。ただ血が繋がっていないだけで同じ家族だと思っていた。現にギルバートはエリオットに比較的優しく接してくれたしヴィンセントも構ってくれた。ただ二人と遊んだことが兄達に知られると怒られた。兄達はギルバートを腫れ物を扱うかのように接する。それがエリオットには理解出来なかった。
「きっと分からないんだよ」
人形をもふもふさせてヴィンセントは言う。
「ナイトレイ家は子供、結構いるでしょ。養子っていうのは子供がいない家がとるものなんだ。だからどうして僕達を招き入れたのか分からないんだよ」
「ヴィンセントは知ってるのか?」
「………どうだろうね?」
含みのある笑いをヴィンセントはいつもする。最早癖なのかもしれない。まるで壁があるように感じて、エリオットはその笑みが嫌いだった。
「エリオットは僕達が嫌い?」
「別に嫌いなんかじゃ……」
「兄さんのご飯美味しいもんね」
「なんでギルバートは厨房になんか立つんだ。あそこは俺達が入るべき場所ではないだろう」
「ギルは貴族とかに囚われない人間だからね」
「ヴィンセントは?」
「僕は兄さんがいれば構わないもの」
ヴィンセントはギルバートに依存している。エリオットから見ても明らかで、とても仲が良いんだと思っていた。しかし時々不安になる。ヴィンセントのギルバートを見る目が変わってきたのだ。
「ねぇ、エリオット」
「………何だよ」
「ありがとう」
「……はっ?」
「兄さんがナイトレイ家とかろうじてでも縁があるのはエリオットがいるからだ。この家でギルが心を開いてるのは僕と君だけ。きっとエリオットという存在は兄さんにとって大きい筈だよ」
確信に満ちた言葉をヴィンセントは紡ぐ。その目はとても真剣で、エリオットは息を呑んだ。
「じゃあ僕は行くね。兄さんに会ったらよろしく言っておいてね」
人形を子供のように振り回しながらヴィンセントは屋敷に戻って行った。その後ろ姿を、ただ見ているしか無かった。
「また君にお礼を言わなくちゃね」
紅く染まった彼から生気は感じられない。それでもヴィンセントの目には、あの日のエリオットが写っていた。