バスカヴィルが去った後、ブレイクとギルバードはその場に座り込んだ。お互いチェインの負荷が襲ってきたのだ。"イカレ帽子屋"はチェイン殺しとだけあって身体にかかる負荷が大きい。ブレイクの失明たる原因である。対してギルバードの負荷も甚大だ。身体機能に影響は出ないものの、多大な疲労が伴う。

今回は相手が相手であり、"鴉"自体を出す結果になった。チェシャ猫のような異次元で使った時もそうだが"鴉"は威力や効力に比例しての疲労だ。よって二人はまず回復に専念していた。

「ギルバード君……大丈夫デスカ?」

「自分の心配をしろ。お前の負担の方が大変だろう?」

「慣れましたよ、こんなの」

ブレイクはゆっくりと立ち上がる。シャロン達はまだ建物内だろうか、そんな考えがよぎった。ユラやバスカヴィル、そして首狩りなどまだ問題は山積みである。

「ギルバード君、早く戻りましょう。お嬢様達が心配です」

ギルバードからの返事が無い。先程まで会話をしていたし意識を飛ばした訳ではないだろう。ブレイクはギルバードに近づき顔を覗き込む。

「……っ!!」

ブレイクは反射的にギルバードから離れた。特に何かあった訳ではないのだ。ただ……"反射的"に。しかしギルバードとは違う点があった。

「ギルバード……君?」

ギルバードの瞳には―――ブレイクが写っていなかった。確かにブレイクと目は合っている筈なのに、ギルバードはブレイクを見ていなかった。それが気持ち悪い。光の消えた目が気持ち悪いと、ブレイクは初めて感じた。

しかしこのままにはしておけない。ブレイクはギルバードの肩を掴み揺する。傷口が痛んだが、気にしてはいられなかった。

「ギルバード君!!」

「あっ……」

呻きのような声があがり、ブレイクはギルバードを見る。しかし……ギルバードではなかった。体は、顔はギルバードなのに、ブレイクを見ていたのは違った。ブレイクはその人物が誰かは知らない。どんな人物かも知らない。ただ、口から出てきたのだ。

「グレン……バスカヴィル?」

ブレイクの声を聞き、"ギルバード"は笑った。ギルバードが普段笑う声と同じ音で笑った。

「目は見えなくても気配で分かるのか」

「どうして……ギルバード君に……」

「鴉も体も元は私のだ。使うことに理由などありはしない」

さも当たり前のように言うグレンに、ブレイクは戸惑いを隠せずにいた。ブレイクは100年前を知らない。ギルバードの体のことをよく知るのはヴィンセントくらいだ。だからグレンの言っていることが分からない。

「分からなくて構わない。時はまだ来ない。だが……」


「いつまでも私が待つと思うなよ?」

何かが崩れる音がした。

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