「初めての飛行訓練成功を祝って乾杯〜!」
カランとグラスの中の氷が揺れる。掲げられた手の反動で中に入っていたオレンジジュースが地面に少し零れてしまった。それに慌てる匡平だったが今さら仕方ないこと。諦めて大人しくレジャーシートの上に座った。
「まぁオレンジジュースは仕方ないとして、ホントに今日は頑張ったなぁ」
オレンジジュースを啜りながらポテトチップスを食べる匡平。この二つは子供にとってとても魅力的で、まさに子供が好む代名詞でもある。しかし空守村にはスーパーは疎かコンビニすら無い。そんな環境で手に入るこれら娯楽品は大変貴重なもので。匡平は今日これらを食べることを誰にも言わなかった。
「玖吼理もお疲れ様な」
食べることも飲むことも出来ない玖吼理であるが、感情を共有すること位は出来る。隻である匡平の感情は案山子である玖吼理の元へ届き、その感情を玖吼理なりに理解して反応を返してくれる。これぞ正式な隻と案山子の関係なのだが、今のところ匡平にしか行えない芸当だ。
「ずっと一緒にいたいよ、玖吼理」
オレンジジュースを地面に置き匡平は甘えるように玖吼理に抱き着いた。まるで子供が母親に甘えるかのように。匡平は不安だったのだ。玖吼理が自分を不必要とする日が来るかもしれないと、そう思っていた。
「玖吼理………」
力を込める匡平を慰めるかのように、玖吼理の手が匡平を包み込む。玖吼理は木から出来ている。だからなのか、風に晒されて冷たくなった空気と玖吼理の温かさが匡平の肌に触れた。