朝目が覚めて、一番に村を滅ぼそうと思った。いつもと変わらない、あの普遍な日を送るくらいなら新しい風を吹かせようと。だから阿幾はまず屋敷にいた人間を殺していった。出会ったらそく刺殺、単純かつ自分らしい行動。お社の人間が何人もいたが気にしない。彼らも阿幾の中では滅ぼすべき対象で、その対象は村全域に及んだ。
屋敷が赤で埋め尽くされ、何人もの隻が呼ばれていき。阿幾自身赤く染まっていく様は正に惨劇だった。何人隻を殺しただろうか、何人村人を殺しただろうか。その中に枸雅は、日向は、靄子などの中立が何人いただろうか。ふと、阿幾の中でぷつりと糸が切れた。
「ぁ……、あれ?」
一人領域に立ち尽くす。周りには人のような形のものはたくさんあるのに、誰一人として息もしない動かない。おかしい、何故彼らは赤いのだろう。何故自分は赤いのだろう。
「…………阿幾?」
赤の中に立つ白。いや、白ではなく純白。阿幾にとって世界より大切な者が、赤の中にいて綺麗に映えていた。それを美しいと感じる程阿幾はもう堕ちて―――。
「あき……あき、………起きろ阿幾!!」
誰かに急に体を揺さぶられた。クラクラと回る視界、そこには純白がいた。
「あれ、匡平か?」
「阿幾寝過ぎだよ。もっと規則正しい生活を送らないと」
寝ぼけている阿幾に対して匡平が諌める。阿幾はあまり寝起きは良くない。しかし普段から馴染みのある匡平の姿を見誤るなんて、癪に触るところがある。
「あぁー、夢見てたんだ」
「夢?阿幾が見るなんて珍しい」
寝起きの良くない阿幾はあまり夢を見ない。元々の性質なのかは分からないが。だから夢を見たと言った阿幾に対して、匡平の中で不思議さを感じていた。
「へぇ、良い夢だった?」
「…………あぁ、すごく良い夢だったよ」
阿幾の口角がにやりと上がり笑った。