「ねぇねぇ枸雅くん」
エプロン姿で仕事をしていた日々乃が急に匡平の名を呼んだ。同じく手伝いをしていた匡平はくるりと振り向く。手をくいくいと招く日々乃は(匡平ビジョン曰く)すごく可愛らしい。まさに女の子の仕草で、詩緒とは大違いだった。
「枸雅くんってさ、なんか全体的に立派だよね」
「り、立派ですか……」
「あっ、変な意味じゃないの。ただ何て言うか、阿幾さんとかまひるさんって(思考的にも行動的にも)大変じゃない」
「まぁ否定はしませんけど」
「だからなのかな、枸雅くんって大人に見える」
カチャカチャと食器が擦れる音が部屋に響く。ちなみに日々乃の父親はただ今外出中である。そして詩緒は近くの図書館だ。
(どうして日々乃さん急にあんなことを?も、もしかして………、これからすごいダメ出しをされるんじゃ!だから最初に持ち上げておいたのか。これは次に落とすフリ、つまりは伏線だ。これだけ持ち上げたらダメ出ししても大丈夫だろという日々乃さんの精一杯の優しさ。いや、これ優しいのか?)
「枸雅くん」
(どうしよう俺何かしたかな。手伝いの当番サボった記憶は無いし……。いや、そういうのではなくて日々のダメ出しか!?前から気になってたとか言われたら傷つくなぁ。でも悪い部分は直すべきだし。うーん………)
「枸雅くん!!」
「は、はい!なんでしょう日々乃さん?」
「枸雅くん、全部声に出てるから」
「えっ……えぇ!!ちょっ、すごく恥ずかしいんですけど」
「だろうね。聞いてたこっちも恥ずかしいもの」
「見苦しいとこ見せちゃいましたね……」
「枸雅くん、前言撤回。枸雅くん全然大人じゃないね」
「えっ……、それどういう意味ですか?」
「枸雅くん多分タイプは違うけど、阿幾さんとかまひるさんとかと同じだね」
「すごく複雑なんですけどそれ」
(だって枸雅くん思考がすごく子供だもの。なんというか、うんやっぱり子供だなぁ)
とある日々の日々乃の疑問。