久しぶりに匡平との面会が許された阿幾は、楽しそうに嬉しそうに山道を歩いていた。本来なら週に一度の筈なのに、当主の機嫌が悪いやら何やらで久しぶりになってしまった。匡平の居ない村に何の魅力も感じない阿幾は、常に不機嫌を装い過ごしている。したがって今日の阿幾を見た者はきっと驚くに違いない。

「会いに来た」

「…………入れ」

看守が扉をゆっくりと開ける。扉を開けたことによって入ってきた光が中を照らし出した。

「明るいなぁ。扉を閉めてくれないか?」

久しぶりの匡平の声に胸が高まり何か話したいが、とりあえず扉を閉めた。光は遮断され中をぼんやり照らす豆電球のみになってしまった。

「豆電球って………粗末すぎないか?」

「だよなぁ。俺もそう思う」

ぱたりと匡平は本を閉じて阿幾の方へ向いた。その時に鳴ったしゃらりという音に阿幾は眉をひそめた。

「阿幾、そんな顔するなよ。今さらじゃないか」

匡平の足に繋がれた足枷など珍しくも無い。いや、今だからこそ足枷だが以前は手枷もついていたのだから。その頃に比べたら今はきっとマシな方なのだ。

「歴代最強隻も、こんな所じゃ何にもならないな」

「歴代最強と謳われた、からこそなんだろ。じゃなきゃここまでしないよ」

匡平の目は遠くを見据えていて、阿幾はそれが気に食わなかった。全てを諦めてしまったこの目が。阿幾の知る匡平は、こんなではなかった。そしてこうしたのは空守村だ。

「なぁ阿幾、看守をどけたいんだ」

「………分かった」

阿幾は目を閉じる。そして暗密刃を呼び出した。もちろん中ではなく外に。そして暗密刃で外に居た看守を切り倒した。

「後始末が大変だな。第一殺してくれなんて頼んでない」

「おいおい、そんなこと言うなよ。それにお前だって真顔で後始末云々言うな」

「なんかさ、此処に居ると変わるんだよな」

内面的に、と匡平は笑う。その笑いも以前とは全く違った。以前というのは、匡平と二人遊び回っていた頃だ。

「で、殺させてまでして話したかった話ってなんだよ」

「あぁ、村を出ようと思うんだ」

さらりと匡平は言った。まるでちょっと出かけると言わんばかりに。普通のことを普通と言うような口調で。

「匡平、本気か?」

「あぁ、なんか疲れた。この前さ、まひるが来て都会の話してくれたんだ。そしたら都会に行きたくなって……。だから行こうと思うんだ」

「足枷はどうするんだ。それにお前一人で村から出られる訳無いだろ」

「玖吼理呼ぶから大丈夫」

「玖吼理の隻はお前の妹だろう。お前は席を辞めた身だ」

匡平がこの程度分からない訳が無い。いくらこんな場所で気が病んでいたとしてもだ。阿幾には匡平の考えが分からない。

「阿幾、外に出たい。暗密刃で壊してくれ」

匡平がそう言ったので、阿幾は暗密刃で牢を壊した。もちろん派手にではなくこっそりと。すぐに匡平を連れて外に出た。すると少し経ってから建物自体が倒れてしまった。どうやらもう寿命だったらしい。どちらにせよ阿幾の気遣いは無用だった。

「で、どうするんだ?これから」

「あぁ、玖吼理」

一言匡平が呟くと地面が光る。そこから出てきたのは紛れも無い玖吼理だった。しかし今の匡平に玖吼理を扱う資格などある筈も無い。

「玖吼理は俺の案山子だ。詩緒のだろうが本質的には扱えるのは俺だけだよ」

全てを達観したような目を阿幾に向ける。きっと匡平は知ってしまったのだろう。自分がどれ程の力を持ってしまったのか。周りがそれを謡いあげ、崇め奉ってしまったから。村からの異常な信仰が原因で、匡平は変わらざるを得なかった。そしてその匡平に畏怖を感じたのも村だ。強すぎる力に臆し、扱いきれないと判断をしたお社は、殺せずに幽閉を選んだのだ。

「阿幾、どうする?」

「匡平がいない村にいる理由がない」

阿幾は匡平の手を掴み暗密刃に乗せた。そして玖吼理を仕舞うように匡平に言い、阿幾は暗密刃を飛ばし都会に向けて飛び立った。

いつまで逃げれるかは分からない。でも願わくば、一生続いて欲しかった。

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