アレンが任務から帰るとなにやら談話室が騒がしかった。何だろう?と気になったので向かってみると、そこにはリナリーとラビ、そして神田までもが居た。
「珍しいですね、三人が揃うなんて。一体どうしたんですか?」
「あぁアレン君。今ねこれやってるの」
そう言ってなにやら雑誌らしいものを差し出してきた。本のタイトルを読み上げれば、アレンの中に疑問譜が浮かぶ。
「愛する人へ贈る手編み術………。なんですか、これ」
「これね、私が買ってきてここでやってたの。今の季節寒くなってきたしね。そしたらラビもやりたいって言いだして」
「あぁなるほど。でもなんで神田まで?神田こういうの嫌いですよね」
「当たり前だ。俺だって好きでこんな所に居るんじゃない。ただ次の任務まで少し時間があるからだ」
アレンとしては腑に落ちない回答だったが気にしない。
「それにしても………リナリーって意外に不器用なんですか?」
ラビのはともかくリナリーのは編み物とはいえない状態だった。
「あー……。やっぱりアレン君もそう思う?私こういう細かい作業苦手で……」
なんとなく重い空気になってしまったので
「でもみんなを気遣ってくれる気持ちはちゃんと伝わってきます」
とすかさずフォローした。ふと壁に掛かっている時計を見るとかなり時間が経っていたことに気付く。
「じゃあ僕は報告があるのでこれで」
「うんバイバイ」
「おぉーまたなー」
「……フン」
アレンは足早に司令室に向かった。アレンが司令室に着くと、書類に埋まっているコムイが居た。
「やぁ任務終わったみたいだね。じゃあ報告お願いしようか」
コムイが椅子に座ると、アレンも座った。
「はい、今回の任務についてですが、やっぱりまた空振りでした。アクマは何体かいましたが、イノセンスは無かったんです」
「そうか………。いや、最近どうもハズレが多くてね。エクソシストにも負担をかけてしまっているし。こちらとしても何か対策があればね」
「いえ、これが僕らの仕事ですから」
「ははっ、そう言ってもらえると嬉しいよ」
アレンは報告書をコムイに渡して、立ち上がった。
「じゃあ僕は失礼しますね。何か任務が出来たら呼んでください」
「仕事もいいけど休養もね。じゃあおやすみなさい」
アレンはニコリと笑うと自室へ戻っていった。
(そういえばリナリーたちはまだ編み物やってるのかな?)
ふと思い出したアレンは談話室に行ってみた。そこには頑張って編んでたけど睡魔に負けましたという二人となんやかんやで眠ってしまった一人がいた。
(あぁ風邪ひいちゃうよなぁ。なにか毛布とか持ってこよ)
アレンは近くに置いてあった防寒用の毛布を三枚持ってきて三人に掛けた。三人の顔を見たら不意に入団直後のことを思い出した。
(あの時は敵に間違えられるわ、年寄り扱いされるわで困ったものだったなぁ)
アレンは彼らとのことを思い出すと同時に過去についても思い出していた。自分が左手のせいで虐げられていたことだ。
(あの時はつらかったけど今は………)
そう思いリナリーの髪に触れようとしたとき、
《アレン・・・どうしたんですか?》
教団の皆が聞いたことの無い声が談話室にこだました……もちろん聞いたことが無いというのはアレンを除いてだ。
「どうしたの?いきなり………」
《いえ……アレンがいつもとは違う表情をしていたので気になっただけです》
「僕だっていろんな表情をするよ」
《そうですね、すみません》
《でもアレン――、私はね、もしかして彼らに"ナカマ"なんてものを期待しているのかなんて思ったんですよ》
アレンはそれについて何も返さなかった。
《勘違いしてはいけませんよ。君と彼らの関係はあくまで仕事上の付き合いであって、それ以上の関係は望めません。下手に信用すれば命取りになる可能性だってあります。私は……「大丈夫、君が心配なんてしなくても。自分自身が一番分かってるから」
そうアレンが言うとその声は何も言わなくなった。声が聞こえなくなった後、アレンは一人呟いた。
「僕の世界は君だけだから」