「玖吼理が悪いんだからな!!」
拗ねた声で玖吼理を責める匡平。普段の玖吼理への態度が全く異なり、それが匡平の怒りを表していた。玖吼理はそのままじっと動かない。匡平はむぅと頬を膨らませて玖吼理に近づき、胴体部分をポカポカと叩いた。
「そもそもどうして急に出てきたんだよ。僕は呼んでなんかない」
匡平が問い詰めると玖吼理は手で匡平の腕に触れた。そこには服で見えないが傷がある。決して深刻な訳ではないが、擦り傷やかすり傷ではなかった。
「これがどうした?」
首を傾げて聞けば、玖吼理はたどたどしく匡平に話した。
「仲直りしたのか?」
二人を部屋に残してから暇になってしまった阿幾は、空守村の少し外れに寝に来ていた。何かお咎めをくらうことは無いだろうし、あったとしても暗密刃の練習と言えば何とかなる。そして雲とは違う影を見つけ見上げると、玖吼理に乗った匡平が居たのだ。
「ん?あぁ、仲直りしたよ」
「暗密刃の隻になりたいんじゃなかったのか?」
「阿幾は意地悪だなぁ」
ふわりと地についた一体と一人に阿幾は近づいていく。眠気は残念ながら冴えてしまったが、退屈凌ぎにはなりそうだ。
「で、結局どう仲直りしたんだよ」
「仲直りというか、僕の思い違いかな」
「匡平の勘違いかよ」
ははっと匡平が笑うと玖吼理が少し体を傾ける。玖吼理のレンズになっている部分を匡平少し撫でると、玖吼理の手がゆらゆらと揺れた。
「なんか、案山子って友達みたいだよな」
「そんな緩い考え匡平くらいだよ」
案山子と隻の関係はそんな生易しいものではない。そうだろうと阿幾は思っている。どちらが主導権を握るか、相手に自身を握らせないか。歴代隻とは全く違う道を歩く匡平の未来が、阿幾には見えなかった。
―――これはまだ運命を知らない頃の思い出。