小さい頃の阿幾は半袖をよく着ていた。着ていたという過去形に違和感があると思うがその通りで、成長するにつれて徐々に頻度が減っていった。どんなに暑くとも決してスタイルを崩さなくなった阿幾の秘密を知りたいと思うのは当然で、匡平はやたら阿幾に理由を聞く。しかし適当にあしらわれてばかりで何も話してくれない。
そんな中、記録的猛暑が空守村を襲った。うちわや扇風機では歯が立たず、クーラーフル活用。さすがの阿幾も暑かったのか、半袖を着ていた。ちなみに匡平はタンクトップである。
そしてこの日、匡平は気づいてしまった。否応なしに視界に入ってしまう、不可抗力だ。
「阿幾って腕細いのな」
「一回崖から落として暗密刃で切り刻んでやろうか匡平」
まさかの切り替えしに匡平は怯えた目で阿幾を見る。匡平に対してだけは違った阿幾が見せた態度は、匡平を悲しませるのには十分で。縮まっていたように見えた距離が実は遠かったのだと思った匡平は、顔を俯かせ手を震わした。
「ごめっ――、阿幾が僕のこと嫌いなの気づかなくて……」
「ちょっ、そうじゃなくて……。あぁもう!男なのに腕細いとか恥ずかしいだろ!!」
「恥ずかしい?なんで?」
素で分からない匡平はこてんと首を傾げる。その態度に舌打ちをしたかったが、また匡平を悲しませることはしたくなかった。
「だって細いのは弱そうに見えるだろ」
「そんなことないよ。僕のほうが腕は太いけど、僕強く見える?」
「全く」
匡平の問いに即答した阿幾。その姿に匡平は笑ってしまった。笑いは不思議に移るもので、つられて阿幾も笑う。阿幾のコンプレックスの話題はいつの間にか消えていた。
「うん、でもやっぱりだ」
「何がだ?」
「阿幾には長袖が似合う」
無意識な発言に阿幾は顔を赤らめ、次の日からまた長袖を着ていた。