「おい匡平、あれはなんだ?」
阿幾の視線の先には暗密刃と玖吼理。案山子同士が対峙している場面はどこか戦いを思わせるが、二体は動かずにただそこにいた。向かい合い何もしない、何をしているのか分からない。
「玖吼理と暗密刃、ただいま喧嘩中なんだよ」
「暗密刃と玖吼理が?オイオイ、案山子が喧嘩なんかするわけ無いだろ」
「いや、喧嘩中だよ。で、多分玖吼理が負ける」
阿幾は何も言わずに二体を見る。しかし動かずに静止しているのみ。苛立ってきた阿幾だったが数分後、玖吼理がしょんぼりと匡平の元へ帰ってきた。しょんぼりというのは玖吼理が頭を少し下げ手を垂らしているからそう見えるのだ。
「お疲れさん玖吼理。相変わらずお前は暗密刃に勝てないな」
匡平が緩く笑うと玖吼理はまた少しうなだれた。しかし匡平に撫でられると気分が良くなったのか、手を小さく振っている。
「匡平、暗密刃は玖吼理と何を喧嘩してたんだ?」
「あぁ、どちらの隻が強いかだよ。よくあるだろ、下の子が上の子自慢を友達とやるみたいな。あんな感じだよ。暗密刃は阿幾が好きなんだな」
ナチュラルに爆弾を落とす匡平に阿幾は噎せた。さすが天然、やることが違う。阿幾は好きとか言われることが苦手だ。匡平がと言われたら喜ぶが暗密刃がと言われたら複雑である。
「暗密刃も連勝だからな。次は勝てよ玖吼理」
匡平がそう玖吼理を励ますと、玖吼理は手を片方空へピンと伸ばした。