玖吼理が人の言葉を理解出来る設定です。時系列的には隻を辞める頃。
「玖吼理、ごめんな」
始めに匡平は謝った。一心同体の案山子である玖吼理との契約を一方的に破ったことを。匡平自身この村で誰よりも自分が案山子と心を交わせると自負していた。そして結果がこれだ。正気を失い玖吼理を乱暴に扱った。匡平らしからぬ扱いだったと、改めて思ってしまう程に。
「俺はもう玖吼理とはいられない。だから………、詩緒を頼んでもいいか?」
匡平の頼みに玖吼理は頷いた。本来案山子に心はない。あくまで隻が"動かして"いる。しかし玖吼理には、いや匡平の案山子は他とは違った。匡平の言葉を理解し反応してくれる。もちろん言葉を発する訳ではないけれど。
「多分隻を辞めたら村を出ていく。もうこの村の生活に疲れたんだ」
匡平は立ち上がり手を斜めに出す。すると玖吼理は大きい図体を器用に折り曲げ、手の位置に頭を下げた。匡平はゆっくりと玖吼理の頭を撫でた。まるで小さい子の頭を撫でるように。
「玖吼理、戻ろうか」
玖吼理の手に乗り、村へ帰る。綺麗に輝く夕焼けが二人を照らしていた。