「あぁ〜この自販機調子悪いんじゃないの!?」
いつもの通り道であるこの公園。美琴はこの自販機で売っているジュースが好きだった。と言ってもこのジュース、実はただのオレンジジュースであり何処でも売っている。しかしこの自販機は自販機限定商品として、ゲコ太のパッケージになっていた。その上パッケージは一つ一つ異なり、それもまたファンを煽る要因だった。
「近くだと此処しか無いのに……。入れたお金も返らないなんてどういう根性してんのよ!!」
美琴の不機嫌の原因は言わずもがなこの自販機の不調だ。まぁよくあるお金を入れたのに商品が出ないパターンだった。しかしいつもなら美琴キックで直るのだが、今日に限って何故か美琴キックが通用しない。もしかして耐性でも出来たのだろうか?
「あ〜学校遅刻しちゃうじゃない!!」
「………御坂か?」
透き通った白い声が美琴の名を呼ぶ。振り返る前に浮かんでくる姿に美琴は眉をひそめた。
「………百合子じゃない。どうしたのよ」
「自販機を蹴るような女がいたら反応するのは普通じゃねェか?」
「百合子から普通だなんて言葉が出るとは思わなかった」
確実に棘を含んでいる言い方。それに百合子は何も言わず、普通に話し続けた。
「金無いからって無料で自販機を使うのはどうかと思うがな」
「悪いけどお金はきちんと払ったわ。でも出てこないのよ、ジュース」
あと数分後には出発しないと確実に遅刻してしまう。急かすように自分を諌めながら、美琴は自販機の方へ向いた。
(仕方ない。ジュースは諦めるか……)
失意を胸に地面に置いてあった鞄を手にとり肩に担ぐ。その重みが普段は気にならない筈なのに、妙に体に響いた。
ガタン
音と共に何かが美琴に投げられる。それを反射的に美琴は受け取った。人間何かが飛んできたら反射的には避けるものだが、美琴は本能的に理性的にそれを受け取った。
「新発売スカッシュオレンジのゲコ太バージョンねェ……。随分と可愛らしいご趣味で」
「うっうるさいわよ!!あんただって私服白と灰色のくせに!」
「いや、それ関係無ェだろ。つーかどうして美琴ちゃんは俺の私服姿知ってンのかなァ?」
「たまたまよ!!偶然に決まってんでしょ!」
ニヤリと笑う百合子に対して美琴の顔は赤らんでいく。最早遅刻確定なのだが美琴にとってはどうでもよかった。とにかく百合子を潰す。それだけしか頭には無い。
「アンタ覚悟しなさいよ」
「生憎と第三位相手に覚悟することなンざ無ェよ」
あからさまな挑発に見事に乗ってきた百合子は口角を上げた。結局これはいつものオチだ。なんだかんだで美琴は結局百合子に絡む。美琴は何重もの意味で百合子を嫉んでいるのだが、素直すぎる美琴の気性なのか少しからかうだけでこのようになる。それが百合子にとっては面白かった。
「大人しく当たりなさいよ」
「悪ィがオマエの攻撃が俺を掠ることなンざ万一にも無ェ」
百合子に当たらなかった電撃は何故か自販機に当たっていく。その様を見て百合子は、きっと自販機が誤作動を起こしたせいだと勝手に責任転嫁した。