「第一位ってさ、なんか高嶺の花って感じよね」
毛先をくるくると弄りながら、唐突に麦野が言った。くるくるくるくる、綺麗な巻き毛だ。
「百合子が?あんなガサツな女、女として定義するのもどうかと思うぜ」
「じゃあアンタってホモなんだ」
麦野はニヤリと笑って垣根を見る。垣根は目を一瞬見開くとコーヒーを啜った。
「ホモってホモサピエンスの略かよ」
「馬鹿みたいな答え返すなよ。第一位を女として見ないなら男として見てるんじゃないの?」
「馬鹿って五月蝿ぇよ。その馬鹿に勝てない第四位は何なんだ?」
「私はきちんと伝えた。アンタと一緒にしないで。結果に怯えて膜張ってるアンタとは違うのよ」
麦野はきっぱり言いきった。その目を直視出来る筈もなく、垣根はまたコーヒーを啜った。
「そのコーヒー、」
「あ?」
「第一位の好きなやつでしょ」
「…………あぁ」
「無意識ならホント救えない野郎だよ」
「オマエ、いい加減にしないと怒るぞ」
垣根から出た羽を麦野の目の前で停止させる。しかし麦野は臆した様子など一切見せず、ニヤリとまた笑った。
「見ててイライラすんのよ」
「あぁ?」
「浜面と滝壺みたいな奴らって」
麦野は思考停止の垣根を置いてどこかへ行ってしまった。残された垣根はただ一人呆然とするのみ。
ボコッ、と麦野の横の壁に穴が空いた。いきなりのことに少し驚いたが、誰がやったか瞬時に理解出来た。
「余計なことすンじゃねェよ」
「わざとだよ」
「面倒臭ェことしやがって」
「いいじゃん。垣根馬鹿なんだし」
「浜面呼んでくるか」
「もう手は出さないから」
第一位らしく決めなさいよ、それだけ麦野は言い残して、百合子は相反する想いを燻らせていた。