上条当麻は鈍い。何がではなく全てが。同居人の気持ちにも、やたらと絡んで来る中学生の気持ちにも、神裂と同じ組織出身の女性の気持ちにも気づいていない。数え始めたらきりがないであろう数の想いを向けられながら、当の本人は素知らぬ形で日々の生活を送っている。

「それって残酷だよなァ」

「一方通行?」

コーヒーを飲んでいる一方通行がふと漏らした言葉。呟きのように聞こえるそれは、同意を求めているのかいないのか、少し疑問である。

「お前の笑顔の前で何人女が泣いたンだか」

「あれ?一方通行がなんか先生モードになってる」

馬鹿言うなと一方通行が当麻の頭を小突く。しかしそんなの大したものではなく、(土御門レベルなら)撫でる程度だ。

「お前さ、少しは周りを意識しないと自滅する気がすンだよな」

好意を寄せられすぎて、誰とも成就出来ない。過程は羨ましすぎるのに、結果だけ見ると非常に残念な奴だ。

「いやいや、上条さんは結構周りに気を使ってますよ。それに誰かと仲良くすると、その分なんか後々辛くなる気がする。こう、不幸が押し寄せるみたいな」

確かに自分以外に優しくする彼なんて嫌いという思考は存在する。嫉妬が空回りしてしまうみたいに。だが少なくとも当麻の周りはそういうものではないと、一方通行は思う。彼女達は純粋に当麻のことを想っている。

「あとはさ、本命いるから」

「………そうだったのか?」

「上条さんもそういうお年頃だからね」

「なンか悪ィな。余計なことしたかもしれねェ」

本命がいる人間に周りと仲良くしろと言うのは酷だ。一方通行はそれを知らなかったから言えたが、今となっては何も言えまい。

「たださ、相手が難攻不落なんだよな」

「難攻不落?フラグ建築士から聞くことはねェ台詞だな」

「フラグ建築士?………いやさ、相手が一番大切にしているものが俺じゃないから」

「分かるのか?」

「誰から見ても一目瞭然だよ。相手はある子しか見えてないし、ある子は相手しか見えてない。まさに相思相愛なんだよなぁ」

「ンな奴がお前の周りにいたのか」

「俺よりそいつの方が鈍感だと思う。相思相愛のくせに自分じゃ気づいてない」

「確かにお前と同じくらい鈍感野郎だな」

一方通行はコーヒーを啜る。味に満足したのか若干嬉しそうだ。(と言っても表情は変わらず、纏う空気が変わった程度だが)その横顔を当麻は複雑そうな顔で見ていた。

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