目の前で繰り広げられる光景に、上条当麻は息を呑んだ。
土御門が元から魔術サイドであることは知ってる。海原もといエツァリが美琴ラブなことも知ってる。結標がスカートの下にアンダーを履いているかは、知らない。
そして一方通行が杖をついていることを知っている。それが彼にとって大切であり、杖がなければ歩けないことは見てすぐにわかる。いくら馬鹿な当麻でもだ。
それなのに、それなのに………
「えっと、そのですね……」
「………」
「(無言怖ぇ〜)いや、上条さんも悪気はなかったと言いますか……」
「悪気があったら今頃オマエはあの世行きだ」
「本当にごめん!まさかこんな風になるとは思わなくて……」
当麻の目の前には無惨に壊れた杖。正確に言えば、杖だったものだ。それは本来一方通行の右腕になければならない。しかし杖は当麻の手にあった。
「杖はきちんと弁償させて頂きます」
「………構わねェよ。弁償なンざしなくていい。元々こちらにも非はあったからな」
「一方通行さん、貴方は神ですか?」
「生憎悟りを開いたつもりもねェし、開くつもりもねェよ」
「まぁどっちにせよサンキュ。インデックスの食費に弁償だったら上条さんのご飯は二食減る予定だった」
「それはまた、なンか大変だな」
「でもどうやって帰る?杖無しじゃ歩けないんだよな」
一方通行の今の演算能力では最低限の日常生活を営むこともままならない。杖なしで外を歩ける筈もなく、当然家にも帰ることは出来ない。
「あァー、とりあえず黄泉川呼ぶしかねェかも……」
慣れた手つきで携帯を弄る。短縮に黄泉川は設定されているらしく、すぐに黄泉川に繋がった。しかし……
「はぁ〜い、こちら黄泉川愛穂。ただ今絶賛仕事中じゃん。御用のある奴は待つか警備員の方に掛けてくれると助かるじゃん。ってことでアデュー」
黄泉川の抜けた声が留守番電話の音声として流れる。一方通行は最後まで聞いた後、何も言わずに電話を切った。
「警備員に電話したらどうだ?」
「あァ?てめェ、俺に杖が無くて歩けねェから迎えに来いってわざわざ職場に掛けさせる気か?ンなことしたら笑い者だろォが」
「まぁ、そうかもだけど仕方ないんじゃないか?」
「誰のせいでこうなったと思ってやがる」
一方通行の低い声に当麻の肩が少しはねる。普段何気なく会話しているが、やはり怖いものは怖いのだ。
「………じゃあ俺が背負うよ」
「………はァ?」
「お前んちまでさ、俺が運ぶ。だから文句無しな」
「タクシーでも拾う気か?」
「まさか。上条さんのジリ貧生活にタクシーなんて不要だよ」
「つまり俺を背負ったまま家まで帰る気か?」
「上条さんは日々の地獄でこれくらい大丈夫なんですよ」
「………警備員に電話する」
「笑い者になるんじゃ?」
「お前に背負われたらそれこそ笑い者だ」
「ツンデレは後で……なっと」
一方通行の意思関係無しに、当麻は彼を背負った。軽すぎてそこらの女子と変わらないことは、黙っておく。
「てめェ、とっとと下ろしやがれ!!」
「うわー、能力使えない一方通行って子供みたい」
「下ろせ」
「嫌だ」
この状況で一方通行に勝ち目は無く、学園都市では背負われた第一位が見られることになった。