「あぁ……うう………」
布団の中からくぐもった声が静かな部屋に響く。泣いているのか、唸っているのか分からないような声。
「……番外個体?」
幼い声が声の主に問い掛ける。しかし苦しそうな声は消えず、返事もなかった。幼い声……打ち止めは少しの間立っていたが、何も出来ないと悟り出て行った。
この行為は決して一度だけではなかった。度々、三日に一度程度、番外個体は苦しんだ。布団の中に潜り込んでいるため、泣いているのかは分からないが、少なくとも良い状況ではないことは理解出来る。
そしてこのことを、打ち止めのみが知っていた。一方通行は寝る時音に気づかない。黄泉川は部屋が一番遠い為声が聞こえていない。そして芳川も寝付きがとても良い。
番外個体はプライドの塊であったりする。だから多くの人間に弱みを握られることを拒む。同情されたくはないのだ。でも一人で抱えていても、何も変わらない。だから打ち止めは最終手段を使うことにしたのだ。
「………チクられた」
一方通行が唐突に、何かあったかと番外個体に尋ねた。何も無い、ただの日常で。適当に流そうとしたが、夜何かあったかと聞かれたら確信犯である。そしてそれをしるのは、あの幼い司令塔のみなのだ。
「ミサカに構ってる暇があるなら打ち止めと遊んだら?」
「あのガキならアニメ観てる。それにオマエは構われる必要性があるだろォが」
「別に……ミサカの問題であって、他人がどうこうするようなものじゃない」
夜の苦しみを少し思い出して、番外個体は眉をひそめた。そう、あの痛みは他人が治せるものじゃない。
「………オマエは思ってる程有能じゃねェよ」
「はぁ?」
「生まれてまだ一年経たねェガキの分際で何かを悟るな。オマエはそこまで経験も知識も積んでねェ。だからまず頼れ。中に溜めたら壊れるぞ」
「何々?一方通行はミサカの親だったりするわけ?」
「………ある意味な」
その言葉に含まれる影を察した番外個体は、内心しまったと思っていた。実験の為に生まれた妹達は一方通行が生んだとも言える。そして番外個体の製造目的は"一方通行の破壊"であり、これもまた一方通行が生んだものであるのだから。
「まぁミサカに経験が無いのは認めざるをえないかな」
「ガキが何をほざいてるンだか」
「………、ミサカの生存目的は何だろう」
「ミサカはさ、一方通行を壊すために生まれた。作られた当初はそれが目的であってその先なんて見えてなかった。一方通行に運が悪いのか生かされて、それでもミサカには存在理由がない。打ち止めと一方通行はある意味共依存みたいなものだし。ミサカは名前の通り"ミサカシリーズの底辺"なんだよ。どのミサカより劣っていて、生きる理由の無い私は、どうすればいい?」
「…………。俺はオマエを底辺とは思ってない。番外個体という名を持つオマエが劣っているとも思ってない。戦闘能力ならアイツらの中で一番上だし、まァ人間味もあるしな。だから立ち位置で苦しむな。オマエがいつかいたいと思う場所がきっと出来ンだろ」
不器用ながらに言葉を紡ぐ一方通行を見て、番外個体の涙腺が緩んだ。ぼやけていく視界の中、白だけがはっきり浮かび存在感を放つ。それが何故か番外個体を安心させた。
「最近大丈夫だね」
朝食時に掛けられた一言。それに番外個体はこう応えた。
「ミサカはまだまだ負けられないんだよ」