小さい頃は、空から飴が降ってくると思っていた。パラパラパラパラ、甘い飴。私は苺味が好きだから、苺味をたくさん集める。レモンは嫌い、酸っぱいもの。
少し大きくなって、雨が水だと分かった。私は聞き分けの良い方だから、どうして?なんて言って困らせたりしない。ただ"そういうもの"として認識しただけ。
だけど……
「ねぇ、空から飴が降ってきたらって思うことない?」
「………、大丈夫か?」
「ちょっと!何よ、その人を小馬鹿にした態度は!」
思わず机をバンと叩いてしまう。その拍子にグラスからアイスティーが少し零れた。
「いや、常盤台の超電磁砲がそンなガキだとは……」
「今は分かってるわよ。昔の話に決まってるでしょ」
不機嫌そうに椅子に座る美琴は、ちらりと一方通行を見た。確かに今の一方通行は大人びている。境遇的に仕方ないとは思うが、彼にも"少年時代"があった筈なのだ。何事にも夢を見て、希望をもっていた時代が。
「……、ちょっと出てくる。オマエはここにいろ」
「ちょっとどこに行く気?」
美琴の制止を無視し、一方通行は店から出てしまった。取り残された美琴は残ったアイスティーを飲み干す。時間が経ちすぎたのか、氷が溶けて少し薄まってしまっていた。
しばらくして、袋を持った一方通行が隣に座った。中身を聞いてもはぐらかすだけで答えようとしない。そんな態度に苛立ち、美琴は尋ねることを止めた。
「そろそろ行くか」
何を基準にしているのかは分からないが、一方通行は席を立った。美琴もそれに続く。経済力の面や男だからか、会計は一方通行持ちである。
てくてくてくてく、無言で二人は歩き続け公園まで来た。子供はおらず、閑散とした雰囲気が漂っている。
「一方通行?」
不意に止まった一方通行に声を掛ける。しかし返事は無く、ガサガサと袋を漁っている。そして……
バサッ
飴が宙に舞った。赤緑黄青紫……色とりどりの飴が風に乗って宙を舞っていたのだ。ただ投げただけではこうはならない。飴は重いためすぐに地に落ちてしまう。
そう、風だ。風が絶妙な加減で飴を浮かせているのだ。落ちないように、かといって浮きすぎないように。こんな芸当出来る人間は一人しかいない。
「飴が降る空は神秘的かよ、超電磁砲?」
浮かんでいる苺味の飴を一つ摘むと、包装紙をまた浮かせて飴を舌で転がした。