「暑い……」
ぼやいても涼しくならない暑さに、当麻は悪態をつく。まだ7月中旬でこれからが夏本番なのにこの熱さ。地球の危機と体の危機を、身近に感じてしまう。
「まぁ今年はクーラーがあるからな」
夏が始まる前に学園都市で、熱さに関する一斉調査が行われた。その結果クーラーの無い学生寮が多々あり、熱中症にかかる生徒が約二割になるということが分かったのだ。この結果を受けて、学園都市は急遽クーラーの設置を急いだ。そして当麻の寮も例外ではなく、型番落ちだがクーラーを設置された。
「インデックスは小萌先生の所だし、今日はゆっくり休めるなー」
インデックスが不在の時は、あのベッドを当麻が使うことが出来る。普段はバスタブで寝ている当麻からすればとても嬉しいことなのだ。
(早く部屋戻って撮ったアニメ観よ……ってあれ?)
部屋の前にしゃがみ込む少女。その目立つ風貌に思い当たらない訳が無く、当麻は名を呼んだ。
「………鈴科?」
(えっと、氷嚢ってこれでいいのか?)
部屋の前にしゃがみ込んでいた百合子をベッドの上に寝かせて、当麻は氷嚢を頭の上に置いた。すると先程までの苦しそうな表情が和らぎ、顔色も良くなった。
「…………上条」
「起きたか?どうしたんだよ、人の部屋の前で」
「………クーラー壊れて、暑くて、コンビニずっといられなくて、来た」
普段の彼女ならありえないような拙い言葉に、当麻は少し胸が痛んだ。もし、もっとゆっくり帰っていたら彼女は危なかったと。もちろん当麻が悪いのではないが気質上気にしてしまう。
「何か欲しいものあるか?って言っても特に何も無いけどさ」
「なんか涼しい……クーラー?」
「そう。俺達の寮にも付いたんだ」
「暑いから服脱ぎたい」
「鈴科さん!?」
セーラー服に手を掛けようとする百合子を当麻が必死に止める。裾が少し持ち上がった為に見えるウエストに、当麻は眩暈がした。
(生き地獄だ………)
百合子の中で当麻はどうやら尊敬に当たるらしい。何かと頼ってくれるのだが、どうも当麻に対して全て許してくれているのだ。つまりは当麻に対して全く警戒心を持っていない。当麻を「男」と認識していない。
百合子はまぁ、吹寄と比べたら確かに中性的である。しかし中性的だからといって女の子ではない筈がない。それに百合子は当麻の知る限り、一番細くて白い。胸は……インデックスと同じくらいだが。
(上条さんの平穏は何処に!!)
もちろんこんな百合子を外に置いておける筈がない。せめて熱中症が治まるまでは外に出すべきではないだろう。つまりはしばらくこの生き地獄な訳である。
「まぁこんな状況慣れっこですからいいけどね……」
「?」
とりあえず着替えたいであろう百合子を立たせて、当麻の服を用意して脱衣所へ向かわせた。