よく晴れた日の昼下がり、海原光貴はとある用の為にベンチに座っていた。携帯をこまめにチェックするが連絡は来ず、彼は暇を持て余している。
(こんなに晴れているのだから、何か良いことでもおきないだろうか)
神様に無茶なお願いを押し付けながら空を見る。太陽の光が降り注ぎ、海原は目を細めた。見渡せば子供やら大人やらがあちこちにいて、とても楽しそうであった。
その中に一際目立つ人がいた。栗色の髪を肩で軽く切っていて、常盤台の制服がよく似合う。海原は用も忘れて走り出した。
「御坂さ…ん?」
思い切って話し掛けてみる。海原の顔のため、知らないということはないだろう。
「ちょっと、ミサカに何の用……、あぁそうゆうことか」
「御坂さん?」
「ごめんなさい、何でもない。海原さんはどうしてここに?」
「えっと、待ち合わせをしていたんですが相手が来ないもので……」
普段なら叶わない日常的な会話。それを美琴と出来たという事実が海原を舞い上がらせた。用なんて忘れてしまう程に。
「御坂さん、髪型変えました?」
「えっと、ちょっと前髪を。今はいろいろと試していて……」
いつも耳に掛けている髪は下ろしていて、少し乱れている感じがしている。美琴はそんなに外見に無頓着だったろうか。しかし美琴の顔を間違えるわけない。
「ねぇ、海原さん。少しお茶しません?」
「へっ?」
その衝撃に、海原は思わず携帯を壊しそうになった。
所変わって、一方通行は商店街にいた。元々一方通行は番外個体と買い物をしていたのだが、今番外個体は隣にいない。先程までは確かにいたのだが、いつの間にかいなくなっていたのだ。時々だが番外個体には放浪癖がある。それが今回は悪い方向に影響してしまった。
「探すの面倒だし、携帯で呼び出すか」
番外個体も一応携帯を持たされていた。学園都市は科学に特化した街、携帯など小学生でも持っている。ということで、番外個体も青の携帯を先日買ったのだ。
「御坂さんからお茶を誘われるなんて思いませんでしたよ」
雰囲気の良い喫茶店、窓側の席に二人は座っていた。机の上にはコーヒーと紅茶が置かれている。
(まさかこんな良いことが起きるなんて、神も捨てたものじゃない)
たわいもない話をしていく。それだけで海原の心は満たされていった。こんな光景一生願っても叶わないようなものなのだから。
「あっ、ちょっとごめんなさい」
携帯を取り出して席を立ってしまう。その後ろ姿が外に消えるのを見て、海原は息を抜いた。好きな相手とお茶をする、それが海原を緊張させていた。普段死と隣り合わせで戦っている時、こんなに息が詰まるだろうか。
「海原さん?」
電話が終わったのか、彼女は席に座っていた。近くに人が来ても気づかない、それ程までに海原は余裕が無かった。緊張のあまり手に汗を握る。それからは、思ったよりも普通に過ごすことが出来た。いくら緊張しているといっても場数が違う。幾多の危機を乗り切ってきたのだから。
ふと、窓の向こうに見知った顔を見つけた。白い髪に白を基調とした服、そんな人物は海原の記憶の中には一人しかいなかった。
(一方通行?)
何かを探すようにきょろきょろとしている彼は、何かと目立っていた。風貌だけでも目立っているが。一瞬目線が合った。気のせいかと思われたが、一方通行がこちらに向かってくる。これで隣の店にでも入ってくれればいいのだが、彼はそのまま喫茶店に入ってきた。
「オイ、お前何やってンだ」
「………貴方は本当に嫌な人ですね。人が御坂さんとの時間を楽しんでいるのに」
「はァ?いやコイツ超電磁砲じゃ………」
一方通行は紡ごうとした言葉を止め、何やら唸っている。そして何かを閃いたような顔をして、彼女の腕を取った。
「何してンだよ、美琴」
一方通行から出た言葉に海原は耳を疑った。何故一方通行から彼女の名前が出るのか、そして何故下の名前なのか。海原には分からないことばかりである。
「ごめん一方通行、道に迷ったの。そしたら途中で海原さんに会って………」
「ったく、お前は本当に方向音痴だな。とっとと行くぞ。あァ海原、何かコイツが迷惑かけて悪かったな」
「すみませんでした。一方通行行こ」
一方通行は二人分の飲み物代を机に置くと、喫茶店から出ていった。彼女もそれに続くように歩く。手を繋いでいたように見えたのは目の錯覚だと思いたい。
「上条当麻の可能性はありましたけど………一方通行となんて」
海原はそれからしばらく机に臥していた。