一方通行は相も変わらず居間でコーヒーを飲んでいた。今飲んでいるのは新作で、最近の一方通行のお気に入りである。机の上には空の缶が数本、冷蔵庫の中にはいつものまとめ買いのせいで大量の缶が鎮座していた。いつものことなので、誰も気にしない。
「また負けた〜ってミサカはミサカは悔しがってみたり」
「まだまだだね。こんなんじゃミサカには勝てないよ」
視線をテレビに移すと、そこにはゲームで盛り上がっている二人の姿。黄泉川が暇そうだからと買ったゲームは見事二人に気に入られ、毎日のように使われている。二人で協力プレイやらバトルやら出来るらしく、居間には声とゲームの音がよく響く。
「少しは手加減してやれよ」
「手加減?ミサカがそんなことするわけないじゃん」
「そうだよ!ミサカも手加減して勝っても嬉しくない!ってミサカはミサカは自身での勝利に向けて気を取り直してみる」
「何度きても無駄だよ。打ち止めはミサカには一生勝てないから」
番外個体の挑発にまんまと打ち止めは掛かり、自棄になってゲームを再開する。自棄になっては勝てるものも勝てないだろう。
(ゲームねェ……)
二人がやっているのは特に難しいものではない。確かに技量はいるだろうが、ないよりは程度だ。
(あのガキいつも同じところで負けてるからな)
全戦番外個体が勝っているが、実は番外個体は特に強いわけではない、と一方通行は思っていた。確かに結果だけ見れば番外個体は強い。しかし勝因は大体一緒で、必殺技か打ち止めの自滅だ。自滅を勝利回数に入れなかったら(つまりは引き分け扱い)、恐らく同率である筈だ。
(何で分かンないだか……)
一言声を掛ければ解決するであろうこの問題。(言ったところで打ち止めに勝てる保証は無いが)しかし何故だか声を掛けることが出来なかった。先程の自分のあくまで好意を軽くあしらわれたからかだろうか。ただ相変わらず負けを続けている打ち止めと勝利を収めている番外個体を見て、残っていたコーヒーを啜った。
「オイ、ちょっと貸せ」
打ち止めのコントローラーを奪って、テレビの前を陣取る。奪われた打ち止めは呆けていて、番外個体は顔を顰めた。
「ちょっとちょっと、ミサカ達の熱い戦いに水注さないでよ」
「操作方法は……何とかなるか」
「スルーかよ」
ピコピコと操作して、二人用バトルモードになった。番外個体はいつものお気に入りの機体、一方通行は特に考えもせず一番上のものを選んだ。
「一番上って定石的には一番初期なんだから雑魚に決まってんじゃん」
「ンなの知るか。何とかなンだろ」
番外個体の言葉を軽く流して、一方通行はスタートボタンを押した。
「………もう一回」
画面にはWinとLoseの文字がはっきりと出ている。そしてWinの下には初期で雑魚の一方通行の機体。対してLoseの下には番外個体の機体があった。
「めんどくせェな。何度やろうが同じだよ」
「モヤシに負けるなんてミサカの気が収まらない」
二人の後ろでハラハラしているのは打ち止めで。一触即発な二人を宥めようと必死である。
「番外個体は多分一方通行には勝てないんじゃないかな、ってミサカはミサカは遠回しに番外個体をフォローしてみたり」
「ガキは黙ってなよ。ミサカは一方通行と話してるの」
「機体のハンデ有りで勝てないくせにな」
「ちょっとふざけんのもいい加減に「必殺!ミサカアタック!!」
番外個体の言葉に被さるように発した打ち止めの言葉は、二人の口論と画面を止めた。
「喧嘩するならゲーム禁止!ってミサカはミサカは円満な解決方法を提示してみたり」
「………萎えた。また相手になってやるよ」
「当然。ミサカが一方通行を越える日はそう遠くないかもよ」
「あれ?もしかして二人共何だか仲良くなってる?ってミサカはミサカは余計なことをした気になるんだけど」
打ち止めはあれこれ言うが二人は全く気にせず、一方通行はコーヒーを、番外個体は雑誌に集中し始めた。