「不幸の定義って何だと思う?」
当麻から掛けられた問いに、一方通行は即答出来なかった。当麻が周りから不幸少年と呼ばれているのは知っていた。一方通行が見ている限りでも同じことを思うのだから。まぁ不幸といっても女運は悪くないと思われるのだが。
「お前は自分を不幸だと思ってンのか?」
「まぁ色々と問題や厄介事に巻き込まれるのは事実だな」
「それを不幸と見るかそうでないかは人それぞれだろ」
「やっぱり一方通行は正論だな。相談相手に相応しいよ」
「あのシスターも人生経験豊富そうだがな」
「感情論になる奴じゃなくて理論的な奴と話したいんだよ、今はな」
「そりゃ都合良いな、俺は」
確かこの少年は頭で何かを考えるような人間ではなかった筈だ。頭より体が動いてしまうような人種。困った人間を放っておけない。いつも他人ばかり気にかけている一方通行から見たらただの馬鹿だ。そんな人間から理論的なんて言葉が出るとは思わなかった。
「一方通行ってさ、精神的に大人じゃん」
「………ガキだ。お前と変わらない、ただのガキ」
「一方通行がガキねぇ。じゃあ俺は赤ん坊かよ」
当麻の手の中にあった空の缶ココアが綺麗な放物線を描いてごみ箱に向かう。しかし缶はごみ箱ではなく茂みの中に落ちた。
「やっぱり不幸だなぁ」
「今のが不幸なのか?」
当麻は缶を拾いに茂みに入った。ここでポイ捨てしないのが当麻らしさなのだろう。本人は無意識かもしれないが。しかし中々見つからない。たいして大きくない茂みの筈なのに手間取るのも不幸だからだろうか。一方通行が億劫そうに腰を上げ杖を構える。そして茂みを覗き込むと探している当麻の姿。
「おい」
「何だ?あっ、一方通行杖ついてるし一緒に探さなくていいからな」
「いや、そうじゃねェよ。お前の足元にあるじゃねェか」
「えっ、ホントだ!!すごいな、お前」
「いや、見りゃ分かる」
今度はきちんとごみ箱に入れると当麻は疲れたのか地に座った。地面に座ると服が汚れて立ち辛いので一方通行はベンチに座る。
「多分さ、一方通行に相談したのは同じだからだと思う」
「………」
「一方通行も能力目覚めてからさ、なんて言うか不幸だったんじゃないかって」
「親とも引き離されて研究所に入って、学校っていう名ばかりのところに行って」
「だからさ、お前なら俺の欲しい答えをくれるんじゃないかって思った。お前なら不幸という定義が分かると思ったんだ」
「なぁ、お前はさ。今まで不幸だったか?」
「………お前には分からねェよ」
「?」
「お前に俺が見てきた世界は分からねェだろ。研究所で実験ばかりやって人をたくさん殺して、不幸だったかって言われてもお前の不幸とは別物だ。まぁその時の俺は不幸とかっていう概念が分かってなかったがな」
「ただ、少なくとも今はマシだ。あの時に比べたら良すぎて怖くなる程にな」
「………俺もさ、昔も不幸だったらしいんだ。いつからかは分からないけど、多分幼稚園児くらいから。その時に比べたら今は仲間もいるし、悪友もいるし、贅沢かもな」
「(……らしい?)そォかよ。つーか昔なンざ語り合っても意味無ェな」
「誇るは今かぁ」
「不幸不幸嘆くのもいいが、前向け馬鹿」
「励ましてるのか馬鹿にしてるのか分からないな」
当麻が軽く笑うと一方通行も少しだけ微笑んだが当麻はそれに気づかなかった。すると当麻と呼ぶ声が聞こえた。声の方を見るとインデックスの姿があり、手を振りながらこちらに向かって走ってきた。
「……行けよ、呼んでる」
「あぁ、行くよ。何か悪いな」
「気にするな。俺ももう帰る」
帰ると口に出して思い浮かべるのは家で待っているであろう少女や大人。夕食を作りながら帰宅の遅い一方通行を怒っているだろう。そんな姿を思いながら、一方通行は当麻に背を向け歩き出した。後ろでする少女と少年の声を聞きながら、一方通行は歩を速めた。