子供と大人では、世界が違うらしい。大人が容易だと思うことが子供には難しかったり、大人がしないことが子供にとって当たり前だったり。もちろん両者のどちらかに非がある訳ではなく成長の過程として仕方ないことではあるが、大抵世間は両者の差を理解力の無さで片付けてしまう。大人が子供の世界を理解しなければならないという、一種の固定観念を押し付けてしまう。
「ああーーーっ!!」
「どうした?」
「そのプリン………」
「あァ、コーヒープリンだけど」
「それミサカの分なのー!ってミサカはミサカは憤慨してみたり」
「悪ィ、食べる奴いねェと思ったンだよ」
「しかもミサカがご飯の後楽しみにしてたのに、ってミサカはミサカはちょっと恨めしく思ってみる」
「………たかがコーヒープリンでぐだぐだ言うンじゃねェよ」
「たかがって全然反省してない!!ってミサカはミサカは本気で怒ってみたり!」
拳を震わせて涙目で見てくる打ち止めに何も言えず、一方通行はただ舌打ちをした。その態度に腹を立てたのか、打ち止めは罵声を浴びせながら部屋に戻ってしまった。罵声といっても馬鹿とか阿呆とか可愛いものばかりだが。
しかし打ち止めからあまり言われることのない台詞に傷ついたのも事実。態度には出さずに一方通行は内心動揺していた。もしかして打ち止めに嫌われたのではないかと。相手が打ち止めだからか、一方通行に余裕はなかった。
そんな姿を優しく見つめるのはパソコンと格闘している芳川で。彼女は一方通行が悩んでいる姿を見て微笑んでいた。
(貴方には人の為に悩むということを経験して欲しいわ)
ここで悩んでそれが成長に繋がれば一方通行の為になる。そういう日々の過程で彼には知ってもらいたいのだ。もし正しい答えに辿り着けなかったなら、その時は助太刀してもいいだろう。大人としてそれくらいはするつもりだ。
「あら、手詰まりかしら」
「あァ?」
「貴方には『たかが』でしょうけど、あの子にはそうではないのよ。女心というより子供心を分かってあげないと」
「ガキの心なンざ興味ねェよ」
「そのガキの心に悩まされているくせにね」
「………何が言いたい」
「歩み寄りは大切ってことよ。貴方が今は歩み寄らなければならないんじゃないかしら」
「………出てくる」
「いってらっしゃい」
一方通行が出た後、芳川はパソコンを閉じた。職探しサイトを回ってみたが合いそうなものがない。これで当分は居候生活決定である。
(あの子のフォローは必要ない……か)
今頃部屋でふて腐れているであろう少女を想像しつつ、芳川は冷蔵庫からビールを取り出した。
部屋をノックされる。名は名乗らないものの誰かは分かった。返事をしない訳にもいかないので、打ち止めは入室するように言う。
「悪かった」
彼の第一声に少なからず打ち止めは驚いた。一方通行は素直に謝るような人間ではなかった筈。もっと言い訳じみたことを言われると思ったのだ。
「あなたが素直に謝るなんて珍しいねってミサカはミサカはちょっと棘のある言い方をしてみたり」
「勝手に食ったからな。だから、これ」
一方通行から渡されたのはコンビニの袋。中にはコーヒープリンが二つも入っていた。
「二つも貰えないよってミサカはミサカは遠慮してみたり」
「詫びの分だ、貰っとけ」
そう言うと打ち止めは喜び、コーヒープリンに手を付けた。しかし食べる前に手招きをする。呼ばれた一方通行は打ち止めの元へ行くと、コーヒープリンを渡された。
「おい」
「二人で食べたいなってミサカはミサカはお願いしてみたり」
「オマエの為に買ってきたンだがな」
「ミサカがあげたんだから良いんだよってミサカはミサカは説明してみる」
並んでコーヒープリンを食べる様子は仲の良い兄妹のようで、とても微笑ましい。この穏やかな空気がいつまでも続けばいいと、打ち止めは思った。