「ダイエットだァ?」
雑誌を読むのをやめて声の主の方を見ると、何やら深刻そうな顔をしている。まるで何かに困っているような顔である。
「ミサカさ、今お風呂上がりなんだけど……」
「見たら分かる」
番外個体はバスタオルを体に巻いているだけで服を着ていない。ここで某不幸青年ならば色々と鮮やかなハプニングが起きるのだが、第一位の手前何も起きなかった。
「さっき体重計乗ってみたんだけど、………増えてた」
「そりゃご愁傷様」
「ちょっと、ミサカが恥ずかしさを忍んで相談しているんだけど」
確かに番外個体は自身の弱点や弱みを人に言ったり見せたりしない。むしろ勘繰って探っていくような人間である。
「まァ女にとって体重はなンか気にするものみたいだな」
昨日の風呂場でのことを思い出す。一方通行が一人でお風呂に入って出ると打ち止めの姿。なんとなく浴室の扉の向こうに気配を感じたので、一応は腰にタオルを巻いている。光景的には大丈夫な筈だが、打ち止めは何故か顔を赤くしながら俯いている。
それはいいとして、問題はここから。打ち止めは一方通行の手を引くと体重計の上に乗せたのだ。抵抗はしたがあまり大きくしてしまうと打ち止めが怪我をすると思い、結局少女にさえ無意味な程度になった。体重計に乗りデジタル数字が数値を示す。以前より若干増えていた。きっとまともに動いているから体が多くの栄養を求めたのだろう。しかし打ち止めはその数値を見て何故か泣き顔になった。一方通行は突然の事態に慌てたが、声を掛ける前に打ち止めは出て行ってしまった。
そしてリビングから聞こえたのは黄泉川の叫びと芳川の呪詛。何を言っているかは扉でよく聞こえないが、誰に向かって言っているかは分かった。
そんなことが昨日あり、女性が体重を気にすることを一応は理解した。しかしたかが重み程度で一喜一憂するのか、根本的にはよく理解はしていなかった。そして同時に番外個体は気にしないと何か勘違いしてしまっていた。彼女は負の行動をすることを生き甲斐にしており、一般論など通じないと思っていたのだ。
「で、何で俺に言った?」
「ミサカも一応はレベル4っていう結果が出てるわけ。だから精密な電流操作とかある程度なら可能な訳よ」
「ほォ」
「それでさ、アンタのベクトル操作とミサカの電流操作で効率的に痩せられない?」
「そりゃまたどォでもいいこと考えたな」
体内の電流を操り脂肪を効率良く燃やす、確かに一方通行の能力なら不可能ではない。どんな精密作業だろうと、人間の頭の電流を操りウイルスを駆除することには及ばないだろう。だが番外個体のスペックで出来るかと言われて頷くことは出来なかった。レベル4とはいえ一方通行から見ればたかがレベル4だ。出来ることに限界があるし、レベル5の足元にすら届かない。体内の電流を操るなんて簡単に言うが、一歩間違えれば死に至るわけで。
「失敗したらダイエットどころじゃねェぞ」
「良い案だと思ったのに……」
一時は諦めかけた番外個体だが、目に火が灯った。
「そうだ!一方通行がやればいいじゃん」
「……はァ?」
「ミサカには出来ないけどアンタなら出来るわけでしょ?なら一方通行がミサカの電流操って……」
「俺がそこまでする理由がない」
「ミサカの頼みだよ?聞いてよ聞いてよ」
恥ずかしげもなく番外個体は体を一方通行に擦り寄せる。乾きかけの髪から水が滴り落ちて、一方通行の服を濡らした。
「オイ、濡れンだろォが」
「………ここまでだと重傷じゃない?」
「第一オマエそこまで心配するような体型でもないだろ」
タオルを巻いているとはいえ、布越しに番外個体の体型のラインは浮き出ていた。異なる成長の仕方で芳川をも凌駕する番外個体の胸、大食漢であるにも括れのよく出た腰、オリジナルである御坂美琴のから継いでいる長い足。一方通行の目線からではなく一般の目線から見ても番外個体は痩せている。
「女はダイエットだの五月蝿すぎなンだよ。少しは自分に自信もったらどォだ?」
「アンタに言われるとね、何か虚しいのよ」
と悪態をつきつつ、番外個体は少し機嫌が良かった。色では勝てないが一方通行が褒めてくれたことが予想外に嬉しかったのだ。表情や態度には出さないものの、やはり褒められて嬉しくならないはずないだろう。
(ミサカは一方通行から向けられる言葉やら行為やらを全部嫌悪するように"出来て"るんだけどね)
「オイ」
「何?ミサカのこと褒めてくれるの?」
「いや………タオル」
「?」
「擦り付けてくるから取れかかっ(パサッ)」
一方通行の体に押し付けられている番外個体の体。そんなことが出来るのは布という壁があるからだ。一方通行の視界に入ったのはまず胸。他人がどうかは知らないが、平均よりかは大きい……だろう。そして腰。クローンとは思えない健康的な色が色気を煽っていた。そして腰の下は某少年誌でも靄で隠されていた………
「あぁぁぁぁ〜!!」
落ちたタオルで前を隠すと番外個体は浴室へ戻って行った。いくら前を隠しても背を向けながら走れば意味が無い、と一方通行は思ったが敢えて言わない。一方通行は珍しく空気を読んだ。