常盤台中学といえば名門中の名門、学園都市に住む女子にとって正に憧れの地である。厳しいレベル制限の中入ることになるが、入ってしまえば楽園。周りからは憧れの眼差しで見られる。

そんな理想の学校の前に一台のタクシーが止まった。時間は丁度登校時、近くにいた常盤台生は何事かと奇異の目を向ける。いくら常盤台がお嬢様学校だからといってタクシー登校の生徒などいない。

車から出てきた人物の印象はまず白、そして細いだった。男子にしては長めの白い髪にグレーホワイトの服、そして現代的な杖。知る人ぞ知る人物なのだが常盤台というある意味"平和"な地帯にいる人間には馴染みのない人物である。

一方通行は杖をつきながら常盤台の門をくぐる。しかし中に入ろうとした時に呼び止められた。

「そこのあなた!我が常盤台中学に用とはどういう了見ですの?」

「あァ?なンだ一々、面倒臭ェガキだな」

「なっ……初対面の女性に対する態度とは思えませんわ。とにかく不法侵入者を放ってはおけませんの」

「誰が不法侵入者だ……って俺か。別に手を出しに来た訳じゃねェよ。ただの人探しだ」

「人探し?」

「御坂美琴ってここの生徒だろ?」

次の瞬間黒子は一方通行の視界から消え背後に回った。普通の人間ならばありえないが黒子はレベル4の瞬間移動だ。

しかし一方通行は全く動じずに首を鳴らした。まるで彼女の行動がくだらないとでもいうように。黒子はその行動に不快感を覚えた。

「……お姉様に何か用でして?」

「お姉様ァ?いつの間に妹が増えたンだよ。一万人以上いれば十分だろォが」

「何のことだかサッパリ分かりませんわ」

「用があるって言っただろ。つーかアイツから呼ばれたンだが」

「お姉様が?一体どうして…「黒子ストォォップ!!」

校舎から走ってきたのは言わずもがな美琴であった。全力疾走のようで息が完全に上がっている。今すぐお姉様!と抱き着きたい衝動に駆られるが、まずは一方通行との関係を聞き出さなければならない。

「……大丈夫か?」

「御坂美琴様にしたらこんなの問題じゃないわ」

「そォかよ。」

「お姉様、この方は一体……」

「どう説明したらいいか……」

「コイツの妹と同棲してる」

「……はぁ?」

「ちょっと!アンタ何言ってるのよ!!」

「あのガキも妹達の一員だろ。だったらオマエの妹。まぁ番外個体は別だが」

「言い方ってものがあるでしょうが!」

「一々面倒臭ェな。で、なンで呼び出したンんだよ」

「えっ、私?呼び出してなんかないけど」

「はァ?番外個体の奴オマエが俺に用があるって言ってたぞ」

「あの子……余計な事してくれたわね」

「お姉様、どういうことですの?」

「あー、えっとね…。多分それ一方通行への嘘だと思う。あの子そういうの好きだし」

「……チッ、そういうことかよ。どうりで場所や時間を細かく設定してある訳だ」

「本当にごめんなさい。あと黒子もいきなり手を出したんだから謝りなさいよ」

「しかし……」

「別に構わねェ。風紀委員として当然の責務だろ」

「あっ、授業始まっちゃう。じゃあ今度何か奢るわ」

「その優しさは万年不幸野郎に使ってやれ」

平和的な言葉のやりとり。それすらも一方通行には眩しくて。それは一方通行に限ったことではない。美琴自身、一方通行と会話が出来ることを嬉しく思っていた。

美琴と一方通行は本来敵対関係にあるべきだ。しかし強すぎる憎しみはいつか強すぎる感情に、その感情はいつのまにか恋になっていた。そんな変化に戸惑いを隠せないが、最近では前向きに向き合うようにしている。

―――たとえ大きな敵がいようとも。

「ハロー、一方通行。オリジナルに振られたの?なんならミサカが体で癒して慰めようか?」

校門のところから顔を覗かせるように番外個体はいた。そしてあろうことか、番外個体は一方通行に抱き着いた。

「妄言吐いてる暇があったら他のことをしろ」

「ミサカの生き甲斐は一方通行をからかうことなんだけど」

「そりゃ随分質の悪い冗談だな」

「何々?朝の大事な時間潰されて怒ってるの?ならミサカが一方通行を正攻法で癒してあげよう」

「下心しか見えねェ。コーヒーしか認めねェぞ」

番外個体は一方通行に抱き着いた後ちゃっかりと腕を組み歩き出した。そんな姿を美琴は体をわなわなと震わせながら見ている。紫電が舞いパチパチと音を立てた。

美琴の電撃が一方通行に向かう前に番外個体は振り向いた。そして何か言うように唇を動かして、また一方通行の方を向いてしまった。美琴はその唇の動きから言いたいことを察してしまった。

(オリジナルの意気地無し。チャンスを掴めないならミサカの敵じゃない)

美琴はその言葉を反芻させながら、溜まった苛立ちを空に放った。

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