いつも通りのある日のこと。土御門は立ち上がり言った。

「星を見に行こうぜい」

「却下」

「パスするわ」

「どこかで聞いたような台詞ですね、お断りします」

「なんだよお前ら、ノリ悪いな」

土御門は机を手に持っていた雑誌で叩く。その雑誌の表紙には大きく"都会でも見れる星座特集"と書かれていた。

「第一学園都市で星なンざ見れるわけねェだろ」

「無駄に明るいですからね、ここは」

「というかなんで私達を誘ったのかしら。"表"の人間達と行ったらどう?」

「つまらない連中だな。チーム内での信頼や絆を深めることも重要だろう」

「そンなものはいらないって、てめェが言ったンだろォが」「昔のことは気にするな。俺は案外お前達のこと嫌いじゃない。別に星を見に行くは前振りからのノリだ」

「ぶっちゃけましたね。……久しぶりの休暇として戯れるのならば良いのかもしれませんが」

「なによこの流れ……はいはい、私も行くわよ。気晴らし程度にでも考えておくわ」

「めんどくせェ。行くなら勝手にしろ」

「分かった、勝手にさせてもらう」

海原は自分のパソコンを立ち上げて、何やら検索し始めた。土御門は例の雑誌を読み、結標は携帯を弄りだす。一方通行は特にやることも無かったので、急な任務の為の仮眠を取ることにした。その日は結局アジトに集まっただけで任務は無かったのだが。三人が待ち合わせ場所と時間を決めている間、一方通行はすることも無いので早く帰ることにした。

次の日、一方通行は携帯の着信音で起きた。時刻はまだ1時、普通の人間ならば活動時間のピークである。しかし一方通行にとってはまだ寝ている時間だ。どうでもいい電話ならば切っていただろう、しかし相手は土御門。不機嫌そうに通話ボタンを押して携帯を耳に当てた。

「なンだよ、今日はオフじゃねェのか?」

「急用だ、すぐに出かける準備をしてくれ。バンは前に残してある」

「はいはい」

一方通行は携帯をベッドに投げて着替えを始める。この分だと朝食(もとい昼食)は食べれないかもしれない。着替えを済まして冷蔵庫からコーヒーを取り出して玄関に向かう。ちなみに銃は常に装備している。杖を握って意味は無いであろう鍵をかけた。電極も特に異常は無いし充電もしてある。戦闘では予想外のことさえ無ければ大丈夫だろう。土御門が(グループが)緊急を要する任務ということは規模がデカイか早急に潰さなければならない案件の可能性が高い。バンを待たせるのは悪いと罪悪感を感じる訳ではないが、とりあえず歩を速めて向かう。

中には既に三人揃っている状態だった。海原が胡散臭い笑顔で一方通行を迎える。

「こんにちは一方通行さん、では行きましょうか」

海原の声と共にバンが発進した。住宅街から繁華街に、景色が移り変わっていく。その繁華街をも超えて、バンは止まることなく走りつづける。

「オイ、わざわざ呼び出したンだ。たいしたことなかったらブッ殺すぞ」

「着けば分かるわよ。それまで静かにしてもらえるかしら」

「なんなら寝てても構わないぜい」

「ははっ、気がついたら体が真っ二つなんて醜態晒さないで下さいね」

要は黙って何もせず乗っていろという意味である。とりあえず目を閉じて昔に解いた演算式の展開を行っていた。


「着いたぜ、一方通行」

「オイ、いつの間に学園都市の外に出てた」

「この車は割と簡単に、ね」

「チッ、お前ら……グルか」

「ちなみに今日は依頼は無いわよ。こうでもしないと貴方来ないでしょう?」

目の前には丘があり、立て看板には『星を見るならここ!』と書いてあった。学園都市の光がかなり遠くにあることからして、恐らく関東地方だが東京からずっと遠い地域なのだろう。

「さて、日も暮れてきた。今はまだ冬に近いから星も見れるだろ」

「……御坂さんと見たかったですけどね」

「黙りなさい、私はただ単純に星を見に来たの。貴方達みたいに不純なこと考えてないのよ」

「不純!?義妹かつメイドの舞夏を隣に座らせて『兄貴、星綺麗だな。舞夏嬉しい(はあと)』って言わせたいなんて思ってないぞ!」

「うるせェよ、お前ら。見るなら静かに見ろ」

定評があるのが頷ける程、星が綺麗に見えた。見知ったものもあれば、覚えてすらいないものもある。学園都市、都会では絶対見えないであろう星達。それを自分達は見ている。あの星が果たして今も光り続けているかは定かではない。この光は星が光っていたという証明なだけかもしれない。グループや他の組織もそうだ。いつまで生きれていつ死ぬかは誰にも分からない。それでも星達の様に生きた証を残していけたら。少なくとも自身という存在は無駄にはならない。

「もう少し見ていたいですが、生憎今日は曇りのようです」

「普段ならもう少し見れるみたいだが」

「結標さんの座標移動で雲を移動させたらどうですか?」

「馬鹿にしてる?」

星に大きな雲がかかってしまい、幻想的な空間を単なる闇が支配する。先程までの淡い光は消え失せ、静寂に包まれた。不意に一方通行が右手を空に翳した。

「お前ら、飛ばされンなよ」

カチッという音が響いた瞬間、突風が丘を襲う。恐らく不意打ちならば確実に転ぶなり転がるなりしていただろう。5秒程すると風が止み、ざわついた草が元に戻った。再び静寂に包まれたが先程と違う点が一カ所あった。

「ほぉー中々のものだな」

「星ってこんなに綺麗なのね」

「雲はあなたが?」

「飛ばしただけだ」

常に気を抜かない彼らだが、この時はお互い力を抜いていた。学園都市に戻ればまた泥沼のような状態が続く。しかし今だけは、今だけは平穏な時間を。皆同じことを思っていた。グループとして上を出し抜く、そのためにあくまで"共闘"という形をとっている四人に、初めて共通の思い出が出来た。

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