夢を見た。8月31日に打ち止めを救えず殺す選択をした夢を。夢は本来起きた時に大半を忘れる。覚えていたとしても、微かに程度のもの。それなのに感触が視覚が、鮮明に覚えている。瞼を閉じれば情景がはっきり思い出せるほどに。

とりあえず気分を落ち着かせるために水を飲む。水道水とはいえ、やけに火照った体には気持ち良く染み込んでいった。電気はつけずにリビングを見渡すと、だんだん目が慣れてきたのか物の位置が正確に見えてくる。だいぶ治まってきたので部屋に戻ろうとするが、どうも気が引けてしまう。寝たらまた同じ夢を見る気がしたのだ。よって一方通行はソファに寝転びただ黙った。沈黙は嫌いではない、何も考えずに済むから。次第に眠気も誘われて、意識が遠退いていく。だが

「あれっ、どうしてソファで寝てるの?ってミサカはミサカは素朴な疑問を投げかけてみたり」

「なンでこンな時間に起きてる」

「あなたも同じなんだけどなぁってミサカはミサカはちょっと困ってみたり。ミサカはちょっと暑かったからお水を飲みに来たのってミサカはミサカは正直に言ってみる」

「………嫌な夢でも見たか」

「鋭いなぁってミサカはミサカはあなたの洞察力に感心する。嫌な夢……見たの。ミサカがあなたに殺される夢」

空気が凍る。一方通行は目を見開いたまま打ち止めを見つめる。

「夢の中のあなたは寂しそうで泣きそうだったの。だから覚めてすぐにあなたに会いたくて。部屋にいなかったからリビングに来たってミサカはミサカはホントのことを言ってみたり」

「で、おれはお前を殺したのか?」

「分からない。夢って覚えてないものだよねってミサカはミサカは自身を励ましてみる」

「そォかよ」

一方通行は冷静を装うが動揺していた。打ち止めの夢は自身のものと連動しているように思ったのだ。ウイルスから救えずに殺した一方通行と、ウイルスから救われずに殺された打ち止め。夢にしては、同じ夢にしては残酷すぎる。

(俺はまだまだ赦されねェってことか……)

闇に染まりつつも一方通行は光を守る行いをしてきた。しかしそれだけでは足りない。一方通行が今までしてきた所業に比べたら比較するのも躊躇うくらいに足りないのだろう。だから神様は夢を見せる。忘れるな、という戒めだろうか。

(このガキとの繋がりを消せば、このガキは苦しめられずに済むのかもしれねェな)

一方通行と関わると"幸せ"になれない。学園都市という闇から打ち止めを完全に守りきるのは難しいから。それならばいっそ離れて安全な場所まで離れてもらったほうがいい。一方通行の傍にいるだけで打ち止めが傷つくならば。

「さぁて、ミサカは暴露した訳だから一方通行も暴露しなきゃねってミサカはミサカは両手をワキワキしてみたり」

「………関係ねェよ」

「そんなのは通用しないんだからってミサカはミサカは迫ってみる」

「うるせェよ、寝かせろ」

「むーむー!!」

一方通行はソファで本格的な眠りにつこうとするが、腹部から伝わる重みに阻まれた。

「じゃあミサカもここで寝るってミサカはミサカは宣言してみる」

「狭いンだよ。部屋に戻れ」

「一方通行」

打ち止めが両手を一方通行の肩におく。一方通行の目を正面から見れるように。

「あなたが思うほどミサカは柔じゃない。ミサカは常に守られるだけの存在じゃないんだよってミサカはミサカは一方通行の負担を減らせるようなことを言ってみたり」

「オマエでどうにもできない問題は山積みだろ」

「だからその時はミサカは貴方を頼る。でもね、いつもミサカは貴方に頼らない。貴方にはミサカのこと以外にも大切にして欲しいからってミサカはミサカは思いを伝えてみる」

「……そォかよ」

「だからミサカを置いて行かないで?」

一方通行の体に力が入る。思考を読むように打ち止めは見つめてくるから。一方通行の脳の演算はミサカネットワークで補っている。その関係で打ち止めには一方通行の思考や行動が少しながらも読めたりする。だが今は違う。直感、打ち止めは直感的に一方通行の思いを読み取った。常に一方通行の傍にいる打ち止めだからこそ分かったようなものだが。

「貴方はきっとややこしいこと考えてるんだよね。でもミサカは単純。貴方の傍にいて一緒に暮らしたい。それだけなんだよ、ミサカの望むものは」

打ち止めの手に自然と力が入る。泣きたいのを堪えるように、打ち止めはゆっくり話す。

「分かったから泣くな。何処にも行きやしねェよ」

「ホント!?ミサカはすっごく嬉しいってミサカはミサカは喜びを体で表してみたり」

「オイ、こンなところで暴れるンじゃねェ。落ちンぞ」

「大丈夫!ミサカは…ってひゃあっ!!」

ドスンという音と共に打ち止めが床に落ちる。しかし一方通行が受け止めた為大したことにはならなかった。

「やっぱり貴方が居ないとダメみたいってミサカはミサカは惚気てみたり」

「はいはい」


翌朝、ソファで仲良く眠る姿が黄泉川達に激写された。
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