学園都市に落ちた夕陽が影を作り寂しさを感じさせる中、当麻は一人スーパーの袋を持ちながら歩いていた。袋の中には肉が八割野菜が二割といった状態で、中身から何を作るかは大体想像出来る。
(もう春だけどたまには鍋も乙なもんですかね。なんて言ったってアイツ来るし多い方が良いだろ)
今日は一方通行が当麻の家で夕食を食べていく日なのだ。一方通行は学園都市の裏で生きている人間、常に死と隣り合わせの人間である。本来ならば能力故に死ぬ恐れなど無いが現在は要となる能力に制限がついている為、完全に無敵とは言えなくなってしまった。そんな一方通行に珍しく空きの日が出来たようで、夕食を当麻宅で食べていくことになったのだ。鍋ならば大人数(人数は三人だが食べる量は大人数)で食べられるものだし会話も出来る。久しぶりということもあって当麻はこの日を楽しみにしていたのだ。食材もいつもよりランクが上がっている。インデックスの胃の中に大半は消えることが予想されるが、食べ逃しは無い量だ。
商店街を歩いていると見知った人間がいた。いや、正確に言えば見知った人達。
「土御門と海原と……結標?」
「カミやん、探したぜい」
「折り入って話があります。少々いいですか?」
「………」
「あぁ、いいけど。」
当麻はグループの存在を知らない為、何故この三人が一緒にいるか分からなかった。そしてここにいるべきなのにいない人物のことも。ただ三人はどこか重苦しい表情をしていた。まるで何か辛いことを告げなければならないような。
「カミやん、隠すことも無いから単刀直入に言う」
「なんだよ、改まって。もしかしてインデックスのことか?それなら「違うんです、上条さん」
「一方通行さんが亡くなりました」
「……えっ……」
「任務中に電極の充電が切れて、そのまま銃の餌食になったの。……それだけよ」
「なんで……アイツがそんなことで死ぬわけないだろ!!」
「受け止めろカミやん、アイツはもう最強無敵じゃない。能力が無ければそこら辺の一般人と変わりは無いんだ」
「………あんた達は受け入れたのか?」
「引きずっていても仕方ありませんから。所詮代わりの利く、その程度の存在です」
お手間を取らせてすみませんでした、海原はそれだけ言うと去って行った。土御門と結標もそれに続く。最後に当麻の耳に結標の「助けられるなら助けたかったわよ。」という台詞だけ響いた。
当麻はひたすら歩いた。袋を落とさなかった点は褒めていいかもしれない。頭の中は一方通行のことしかない。出会いは最悪で、でも一方通行を完全に加害者とは思えなかったのだ。あの細い体に一体どの位の業を背負わさせてきたのだろう。当麻には被験者時代の一方通行の境遇は全く分からない。どれだけ孤独に生きてきたか、一方通行自身しか分からないのだろう。それでもいろんな人と出会って変わっていった筈だ。全てを清算することなど出来ない、だから少しずつでも償っていくことを一方通行は理解し実行していった。なのに………。
「すごいな、人間は」
気がつくと家の前にいた。無意識にでも足は帰るべき場所へ向かっていたのだろう。一方通行が今日帰ってくる筈の場所へ。
「待ってたよ、上条」
「打ち止め……」
マンションの前には空色ワンピースの上に男物のシャツを着た打ち止めがいた。いつからいたかは分からないが、そんな格好でいたら寒いだろう。本人も寒いらしく腕を摩ったりしている。
「聞いた?一方通行のこと」
「あぁ、さっきな」
「ミサカが何を言っても貴方には響かないと思うんだってミサカはミサカは自身の無力さに笑ってみたり。あの人は精一杯生きてきたからミサカは何も言えない、悲しいけど泣いてもどうにもならないからってミサカはミサカは気丈に振る舞ってみる」
「……辛くないのか?」
「聞いたの、あの人のこと。あの人ね、ミサカ達を守るために戦ってたんだって、ミサカ達が笑って過ごせるように戦ってたんだってってミサカはミサカはあの人の意向を汲み取る為に笑ってみる。だから泣いちゃダメなの、あの人が哀しむから」
打ち止めの声は震えていた。顔も下を向き、表情を見せようとしない。たかだか十歳の少女には辛すぎる現実だった。当麻は打ち止めの頭に手を乗せ、ただありがとうと告げた。辛いのに自分の為に頑張ってくれてありがとう、と。打ち止めは黙って頷くと、走って行った。
部屋で待っているであろうインデックスの為に部屋へ向かう。今度土御門達に詳しく聞こうと思いながら、必死に思いを押し止めた。インデックスは知らないだろう、だから彼女に辛い思いをさせてはいけない。自分で思いの連鎖は止めなければならないと。
「ただいま〜、夕食すぐに作るからな」
「とうまとうま!私を待たせるなんて酷いんじゃないかな。私はお腹が空いて……死にそう」
「悪い悪い、すぐに作るから、な」
「三下のくせに人を待たせてンじゃねェよ」
「その言い方は酷いんじゃ……って、一方…通行?」
「てめェから誘っておいて忘れてるンですかァ?」
「そうじゃなくて……任務で死んだって……」
「あァ?誰が死んだだと?あァそうですか、三下の脳内で俺は死んでンのか。邪魔したな、帰る」
「違う違う!!さっき土御門から「へいカミやん!感動の再会はどうだにゃー」
「そもそも再会以前に離別すらしてませんよ」
「ねぇ、私の演技上手かったわよね?最後の台詞はキマッてたでしょ」
「えっと、何が起きてるんだ?」
「上条、カレンダー見てってミサカはミサカは促してみたり」
「4月1日だけど。」
「カミやん、今日は……」
「「「「エイプリルフール!!」」」」