通りすがりのお婆さんに「仲のいい兄妹ね」と言われた。打ち止めは家族と呼ばれたことに嬉しいのか、一方通行と番外個体の腕にしがみつく。
「ミサカ達は兄妹なんだって〜ってミサカはミサカは喜びを表してみたり」
「うるせェよクソガキ、重いからとっとと離れろ」
「ミサカは別に構わないよ。打ち止め位なら受け止められるし。どこかのモヤシさんはこの程度の重みにも耐えられないのかにゃ〜?」
「相変わらず勘に障るよォな言動しか出来ねェのか、オマエは」
「別に〜ホントのこと言っただけだけど?」
「ちょっとちょっと!喧嘩しちゃダメ〜ってミサカはミサカは仲裁に入ってみたり」
「本音は?」
「二人でイチャついちゃ嫌〜ってミサカはミサカは思わず本心を吐露してしまったり」
「チッ、面倒臭ェガキ共だな」
黄泉川から買い出しを頼まれたのは本来番外個体と打ち止めだけだった。しかし芳川の意向で一方通行も同伴することになったのだ。芳川曰く「二人だと余計な物を買ってくる」だそうだ。よって一方通行はお財布係を任されたのであった。芳川の考えは間違っておらず、少し歩いただけでフラフラとお店に迷い込む。番外個体は打ち止めに対して甘い面があるので、お財布の紐を緩めてしまうのだ。しかし一方通行はそれを許さず、今日の買い物では今のところ無駄な出費は0円に抑えている。
「ねぇ一方通行、ミサカはあれが欲しいなっておねだりしてみたり」
「…似たような奴持ってンだろォが」
「全然違うよ!家にあるのはカナミンのシニカルステッキ、あれは敵のベルガモットのダーククリスタルだよってミサカはミサカは違いを懇切丁寧に説明してみる」
「ンなの、どれも一緒だろ」
「ダーククリスタルはベルガモットが最終手段で使うから貴重な武器なんだよね」
「おぉ!番外個体はちゃんと分かってくれるのねってミサカはミサカは心の友の出現に喜んでみる」
最早専門的な話を繰り広げる二人を視界に一応入れつつ、一方通行は家に帰りだす。買わないという露骨な意思表示だ。お財布は一方通行が持っているため、必然的に二人は一方通行に付いて行く。チラチラとショーウインドウを見る打ち止めは悲しげであるが、一方通行はそれを無視して歩き続ける。番外個体は何も言わずに二人に付いて行った。
公園まで来たところで、打ち止めがトイレに行きたいと言い出した。家まであと20分程、我慢するには少々長い距離かもしれない。打ち止めがトイレに駆け込むのを見送ってから、不意に一方通行が口を開いた。
「ダーククリスタルとやらはそンなに貴重な物なのかよ」
「おっ、保護者が興味を示しだしたね」
「誰が保護者だ。……で、どうなンだ」
「ミサカの記憶とネットワークの情報を照合した結果だけど、あれを見たのは初めてかな。ダーククリスタルはコアなファンしか好きにならないからね〜。で、保護者様は買ってあげるわけ?」
「……ただ聞いただけだ。」
「おや、意外な展開。てっきり買ってあげるのかと思った」
「なンであのガキの為にわざわざ買わなきゃなンねェんだか」
「アンタって窮地になると打ち止めに過保護になるのに、普通の時はめんどくさい奴になんのね」
「うるせェよ。黙ってろ」
「はいはい、ミサカは大人だから黙ろうかね」
そんなことを言っていると、打ち止めがトイレから帰ってきた。
「おまたせ〜、喧嘩してないよね?ってミサカはミサカは探りを入れてみる」
「喧嘩はしてないけど愛の相談を受けてたよ」
「ちょっとちょっと、冗談だよねってミサカはミサカは疑いの目を向けてみたり」
「うるせェよ、さっさと歩け」
「えっ否定も肯定もしないの?ってミサカはミサカは不安になってきたんだけど」
無駄口を叩きながら歩く一方通行と打ち止めのことを、番外個体は後ろから見ていた。
翌日、打ち止めはカナミンを番外個体と観ていた。一方通行がリビングに入った時、丁度カナミンとベルガモットの戦闘シーンらしく不思議な呪文を唱えながらカナミンがシニカルステッキを振る。ベルガモットは最初苦戦するも懐から杖を取り出し、呪文で杖が大きくなり、ショーウインドウで見たダーククリスタルに変化した。確かに造りは似ているが細部の装飾が異なっている。
(なンで俺はこンなのを観てるンだか)
本来の目的であるコーヒーを冷蔵庫から取り出すと、一方通行は部屋を出る。出る直前テレビにはベルガモットが力を失い、ダーククリスタルが小さなブローチに変わるシーンが映っていた。
「たっだいま〜ってミサカはミサカは帰宅をアピールしてみたり。一方通行いないの〜?」
打ち止めが病院から帰ってきたらしく、部屋に子供特有の高い声が響く。パタパタのお気に入りのスリッパの音がして、大きく扉が開かれる。一方通行はソファに寝転び雑誌を読んでいた。
「……オイ、芳川達はどォした」
「今日はミサカだけで帰って来たのだ!ってミサカはミサカは誇ってみたって痛い痛い、なんでチョップするの〜」
「質問に答えないからだろォが」
「芳川はお医者さんとお話、番外個体は寄りたいとこあるからって、それより聞いて聞いて!!ってミサカはミサカは今すぐ話したい気持ちをなるべく抑えてみたり」
「全然抑えてねェよ」
打ち止めはワイシャツをめくる。腕には白いガーゼが張ってあり、小さく赤が滲んでいる。
「注射か?」
「そう!ミサカは今日初注射を受けた訳なんだけど、あれチクッて痛いんだねってミサカはミサカは初めての経験に顔を顰めてみたり」
「で?」
「泣かなかったミサカにご褒美欲しいなぁってミサカはミサカはこの前のおねだりの延長線をしてみる」
「ダーククリスタルとやらか」
「欲しいのはダーククリスタルなんだけど………」
「?」
「ミサカはあなたからのプレゼントが欲しいなって笑顔で笑いかけてみる」
「……」
「ダーククリスタルにも価値はあるんだけどあなたからのプレゼントだからミサカは欲しいのってミサカはミサカは恥ずかしい台詞を喋ってみたり」
「あンなでかいの場所取るしすぐに飽きるだろ」
「でも…「だからコレ持っとけ」
一方通行は小さな包み紙を打ち止めに軽く投げる。いきなりで戸惑ったようだが、打ち止めはきちんと受け止めた。水玉の包み紙は振るとカラカラと音をたてる。
「えっと、開けていい?」
「勝手にしろ」
リボンを丁寧に解き、中身を手の平に落とす。中からは小さなブローチが出てきた。
「これってダーククリスタルのブローチ…」
白い5枚の花びらの、ダーククリスタルの所有者を表すベルガモットの花のブローチを光に当てキラキラと輝る様を打ち止めはじっと見ている。
「ねぇ、ブローチはどうやって付けるのかな?ってミサカはミサカは髪の毛に当ててみたり」
「違ェよ、ほら貸せ」
打ち止めからブローチを奪うと一方通行は打ち止めを引き寄せワイシャツに付ける。本来付ける場所とは異なるが、打ち止めの服には他に付ける場所はない。ベルガモットの白い花はワイシャツの白に埋もれることなく、存在を主張している。
「あなたがこのブローチのこと知ってるとは知らなかったかもってミサカはミサカは驚きを表してみる」
「偶然だ、偶然」
「何にせよ絶対大切にするねってミサカはミサカはあなたにくっついてみたり」
「チッ、勝手にしろ」
「あれ?いつもは重いとか離れろとか言うのに今日は普通だねってミサカはミサカは疑問に思う。もしかして番外個体に言われたこと気にしてる?」
「黙れ、放り投げるぞ。」
「それは嫌だなぁってミサカはミサカはもっとくっついてみたり」
(ちょっと帰り辛いんだけど)
番外個体は外で二人のやり取りを聞いて見ていた。ミサカネットワークを通じて甘いイチャイチャは絶賛配信中な訳であり、打ち止めはそれに気づいていない。
(ネットワーク切っとかないと妹達にからかわれるねぇ)
自身は妹達の一員ではないと自覚しながら時計を見る。芳川や黄泉川といった大人陳が帰ってくる時間帯だ。
(甘ったるい雰囲気をブッ壊すのも楽しいんだけどね)
番外個体は自身が絶対感じない感情を打ち止めが感じていることを思いながら、壁に体重をかける。あと5分で突撃しよう、そう考えながら番外個体は夕飯について考え始めた。