結論から言うと、カイトの機嫌はとても悪かった。人殺しのパズルを無理矢理押し付けられた時の方がまだマシなくらいである。機嫌が悪いカイトを横目に見ながら立ち去る生徒の目には、疑問が浮かんでいた。
(あれ?いつも一緒の女の子がいない………)
いつも一緒の女の子―――もちろんノノハのことである。カイトの隣にいつも立ち、時に怒り時に笑い時に関節技を掛けているノノハが何故か今日はいないのだ。
―――時は昨日夜にさかのぼる。
始めは一本の電話だった。短縮にも登録してあるノノハからの電話。縛られることが嫌いなカイトだがノノハからの電話には出なかったことが一度も無い。それほどまでにノノハは特別な存在だった。
「もしもし、どうしたんだよ」
「あっカイト?実はいきなりなんだけど、明日カイトのこと迎えに行けないかも」
「……あー、部活の助っ人とか?」
「うーん、助っ人なのかなぁ?なんかギャモン君がね、パズル解くの手伝って欲しいんだって」
「アイツが!?」
ギャモンという単語をノノハから聞いた瞬間、カイトは拳を握りしめていた。好きな相手から憎きライバルの名が出たのだから当然である。
「なんでノノハが行くんだよ。おまえパズルなんて分かんないだろ」
「ほら、私って記憶力良いじゃない?だからなのかなって。特に何のパズルかは聞かなかったけど」
天然にノノハは気づいていない。なんせ長年カイトの気持ちにすら気づかない人間である。会って高々何日かの奴からの好意など気づく筈も無い。そして気づかないどころか懐に入れてしまうところが厄介である。もちろん本人は無意識だろうが。
「パズルに暗記なんて必要無いだろ」
「カイトやけにギャモン君に絡むね。何かあった?」
おまえのことだ!と叫びたい気持ちを抑えてカイトは平静を装う。ギャモンの目的が分かっている以上、阻止がまず先決だ。
「ノノハ、アイツは………」
「あっごめん親来たから切るね!」
カイトの忠告を聞く前に一方的に切られる電話。カイトは結局諦め、次の日いつも通りにノノハが起こしに来ることを願った。