夜の繁華街は常に人工の光で溢れていて、時間を感じさせず人々を深い夜へと誘う。そこで今、とある有名な占い師がいた。百発百中の精度を誇る、占い師の中の占い師。幾多のテレビで取り上げられ、彼女を求める女性は山のようにいる。通称、シンデレラ。本人の可愛さという理由もあるが、この名をつけられた理由は別にある。
彼女がもつ大きな特徴……、12時には去るというところからだ。理由は一切明かされていない、ただシンデレラの如く12時に姿を消す。その彼女の名を聞き、繁華街を歩く少年。全身黒を基調とし、少し浮いた印象を受ける。彼はシンデレラこと、慧を求め歩いていた。時間は11時50分、慧が姿を消すまで10分。12時を過ぎて彼女を見た者は今のところいないため、居場所を突き止めるのは困難だった。
今日は諦めようかと少年が思った時、女性の歓声が聞こえた。目を向けると人だかり、いや、人が長蛇の列を作っている。
(あれか……)
少年こと一は、彼女の元へ向かった。
「ごめんなさい、12時だからまた今度」
店の後片付けを素早く行う。
女性達は諦めたようで、四方に散っていった。
(あ〜眠い。早く帰って寝ないとまずいかも)
慧は全ての片付けを終えると、その場を去った。
(……………)
慧は近くの公園に入った。夜の公園ということもあって、ひっそりと、薄気味悪い。そして後ろを振り向く。
「ストーカーさん、何か用かな?」
暗くて顔までは視認できないが、慧の目線の先には少年が立っていた。
「ストーカーなんて失礼だなぁ。挨拶に来ただけだよ、慧さん」
「生憎貴方みたいな知り合いはいないんだけど」
「僕らは繋がってる、スペックという鎖でね」
スペックという単語を聞いた瞬間、慧の表情が歪んだ。スペックは、当然ながらスペックホルダー同士でしか、単語の意味を成さない。この少年が知っているということは、少年がスペックホルダーということを意味する。
(私は攻撃系じゃないんだけどなぁ)
慧の能力は字のごとく悟る、いわば心理戦だ。慧は相手に力押しされた時点で、ただの女に成り下がる。
「……スペックホルダーが私に何の用?」
「刺々しないでよ、怖いなぁ。別に仲良く話したいだけだよ」
「スペックホルダー同士で仲良くなんて、無理に決まってんでしょ」
「なんで?」
「人間は互いに潰し合うことしか考えてない。私達なら尚更ね、力は抗争や不和しか生まない」
「確かに人間はクズだね。僕と姉ちゃん以外は滅んでいい。でも今は、とりあえず仲間という感覚に酔いしれたい」
「………アンタは何のスペックなの?」
「キミは……サトリでしょ。便利だよねぇ、それ。僕のこと悟ってみてよ」
「営業時間外だから嫌。」
「ケチだなぁ、ケチな娘は嫌われちゃうよ」
「五月蝿い。」
実際営業時間外なんてただの口上。慧のスペックは夜使えない。それを少年に話してしまうと、夜の無力さを自ら語ることになってしまう。眠さに耐えながら、最低限の思考回路は回す。
「まぁいいや、ちょっと会いたくなっただけだし。じゃあね、慧さん」
いきなりの話の転換に、慧はかなり驚いた。少年は何事も無かったかのように、公園を去ろうとする。
(なんなのあの少年)
去り行く少年の後ろ姿を見つめつつ、慧は帰路に着いた。疲れながらもシャワーだけ浴びたかったので、シャワー室へ向かう。冬は寒い、シャワー室の中もだ。ダウンを脱ぎ、マフラーなどを取っていく。化粧を落とすために鏡を見ると、首元にはっきりと手形が。まるで首を絞めてるかのような。