孤児院での戦闘において、アレンは退魔の剣で自身を苦しめた。名の通り魔を祓う剣がアレンを貫いたという事実はアレンのノア化が進んでいる証。そう見るしか他になく、アレンを守ろうとしてきた人間の手には負えない事態になってしまった。
アレンもそれを自覚しているのか、特にそれについて発言しなかった。アレンが自身の潔白を証明しようと紡ぐ言葉は、結果苦しめていくと分かったから。14番目について明確なことが分からなければ、たとえエクソシストだろうが異端分子なのだ。
「ウォーカー」
あれ以来、アレンは話さなくなった。何を言っても無駄だと悟ったのだろうか。ティムを撫でたり本を読んだり、と他者と関わろうとしない。食事のために食堂に行きはするも、終わればすぐに自室に篭ってしまう。唯一外に出る食事の際リナリー達が積極的に話しかけてくるが、アレンはその場を取り繕うだけで結局何も変わらなかった。
そんな痛々しい様子に周りもどう接するべきか分からず、気まずい雰囲気が漂ってしまった。教団など明るい組織ではない。常に死と隣り合わせな環境で、そんな環境だからこそアレンの不調が目立った。普段から明るく楽しげなアレンが笑わない、それだけで教団はどこかお通夜な感じになってしまうのだ。
「ウォーカー、ケーキ食べますか」
リンクの提案に頭を縦に振り、アレンはリンクの近くに来た。食堂に連れていってくれという意味なのだろう。アレンは中央庁の監視下に置かれている為、一人で動くことを禁止されている。リンクか他の人間を連れていなければ食堂にさえ行けない。
食堂への廊下で、ふとリンクが立ち止まった。後ろを歩いていたアレンは不思議そうに首を傾げる。
「ウォーカー」
「……何?」
「………逃げましょうか」
リンクはアレンの左手を握った。アレンは驚いた様子でリンクを見る。
「君は教団にいたくないんでしょう?なら方舟を使って逃げましょうか?」
「リンク?」
「ここに帰ってきてからの君はアレンウォーカーらしくない。いつもの君はたとえ逆境にいても、未来を信じて行動する眩しい人間でしょう。それが仲間に心配をかけて不安にさせて…。いつもの君はどこにいったんですか」
「僕は………」
「クロス元帥がいない今、君を守ってくれる人間はいないかもしれない。でも支えてくれる人間はたくさんいるでしょう?」
廊下の先にはリナリーとラビと神田の姿。リンクがこのタイミングを狙ったのかは分からないが、リンクはアレンの背を押した。
「うまく整理出来たら部屋に戻りなさい。ケーキ焼いておきますから」
リンクはそう言い残すと部屋に戻ってしまった。残されたアレンと視線の先には三人がいる。そちらもアレンに気づいたのか、気まずそうに顔を逸らした。ノアだから、14番目の宿主だからではない。アレンが今まで彼等に壁を築いてしまったから。三人の態度にアレンは少し悲しみつつも反省した。優しくていつも傍にいてくれた彼等にそこまでさせてしまうほど、アレンは閉じこもっていたのだと実感したからだ。
「リナリー、ピン可愛いですね」
「あっ、うん!ミランダがね、任務の際に買って来てくれたの」
「リナリーピンしてたんさ?全然気づかなかった」
「俺はさっき組み手の時気づいた」
「ラビってダメですね〜。ブックマン失格じゃないですか」
「酷っ!!アレン言いすぎさ〜」
「すみません、ラビと神田相手だと遠慮という言葉が消えちゃって」
「おいモヤシ、俺をそこに入れるな」
「神田相手に遠慮なんていらないですよ」
「ちょっと二人とも!」
笑い声が廊下に響いた。それを聞いてリンクはケーキの材料を取りに行くために食堂へ向かった。